Karuizawa Villa Hemerocallis	ホーム 第1-10章 第11-20章 第21-30章 第31-42章
軽井沢 ヴィラ・ヘメロカリス 　　　　　　　 第２７章 共犯者 　　　　　　　 関連リンク：	第２７章　共犯者 　 　特捜班の清水は猪首を震わせながら唸っていた。誘拐犯の行方が全く掴めなかった。まるで霧が消えるように姿を眩ましてしまい、その後も、何の連絡もなかった。軽井沢大橋から投げ捨てられた３千万円も消え、結局、事件の後に残ったのは、石墨の死だけだった。電話会社に協力を依頼して、事件当日の携帯電話の発信基地を調べてもらったが、それらしき発信情報は分からなかった。 　ホテル関係者への事情聴取を一通り行って気になる人物がいた。石墨の妻だった。彼女は数日間もの間、夫からの連絡がないにも関わらず警察に捜索願を出していなかった。妻は夫から連絡のない事はよくある事だと平然としていた。単身赴任とはいえ家族の絆とはそんなに乾いたものだろうかと首を傾げた。 　自分自身、重大事件が発生すると長期間、家を空ける事がある。しかし、どんなに忙しくても必ず一日一回は連絡をするようにしていた。３ヶ月前に生まれた四女の美沙の事を思い浮かべた。今度こそは、男の子をと期待していたが、また女の子だった。少々、残念な気はしたが、生まれてしまえば可愛いものだ。 　石墨家の内情を調査した所、数億円の保険金が掛けられていることが判明した。脳裏に、保険金目当ての誘拐殺人という構図が閃いた。とすれば妻には共犯者がいるはずだ。身辺調査を徹底的に進めて尋問を厳しく行った。その結果、妻は白状した。だが、それは罪の告白ではなく、夫の浮気の告白であった。ここ数年の間、石墨は外に女を囲っていて自宅には余り寄り付かなくなっていたらしい。離婚を何度も考えたが、一人で子供たちを扶養していく自信もなかったので、取り敢えずは、子供たちが独り立ちするまではと我慢していたという事だった。泣きながら話していたが、それを鵜呑みにする訳にはいかなかった。女は演技上手で泣き上手だ。涙に同情していたら刑事は務まらない。更に妻の身辺の洗い出しをした。しかし、犯行につながるような証拠は何も出てこなかった。　保険金の契約条件なども詳しく調査した。受取人は妻であったが、毎月の支払いは石墨本人がしていた。保険会社の担当者にも契約の詳細な経緯を聞いたが、加入したのも石墨の意思のようだった。どうやら、亡くなった時の、妻に対する慰謝料という意味合いが強いようだった。 　妻がシロの可能性が高まったので、捜査の矛先を自然保護団体に向けた。大規模開発に対して先頭に立って反対している自然保護団体を捜査してみたが、何の進展もなかった。犯人は、文面で自然保護団体を名乗っていたが、面が割れそうな事をわざわざ、自分から書くとも思えなかった。犯行声明文には、身代金は全額、自然保護団体に寄付すると記載されていたが、今の所、その金の動きはつかめていなかった。捜査は、完全に暗礁に乗り上げた。 第２７章　終了 　→　第２８章　：　悦楽の別荘　へ 　→　このページのトップへ戻る
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