朝比奈颯季　ネット小説 / 軽井沢ヴィラ・ヘメロカリス第２２章　第二の殺人　：　Satsuki Asahina Web Novel / Karuizawa Villa Hemerocallis

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第２２章
第二の殺人

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　第２２章　第二の殺人

　次の日の朝、石墨が死体で見つかった。発見された場所は、矢崎と同じ鼻顔稲荷付近の湯川だった。
　衣服のポケットに、夕菅の花が入っていた。誘拐犯が軽井沢大橋に残したメッセージの「夕菅の祟り」という言葉が、捜査員の脳裏を掠めた。
　検視の結果、背中に死斑が見られた。また、遺体の後頭部には鈍器で殴られたような痕があった。
その後の警察医による検死により、死因は頭蓋骨骨折による脳挫傷と判明した。　
　溺死の兆候は全く見られなかったので、殺害後に川に遺棄されたと推測された。死亡推定日は、４，５日前という結果が出た。

　特捜班の指揮を執っていた清水は、大声で喚き散したい衝動を、必死に抑えた。事件は、最悪の結末を迎えてしまった。
　遺体が見つかったのが、重点的に捜索した軽井沢大橋付近ではなく、そこから十五キロも離れた場所だった。近隣の警察署から捜査員を掻き集めて、軽井沢大橋の付近を捜索している間に、犯人は手薄になった場所に遺体を遺棄したのだ。こちらの動きが、完全に読まれていた。
　街中での尾行なら、他の車の中に紛れようもあるが、人里はなれた山中での尾行は簡単に足が付いてしまうので出来なかった。そこを見事に付かれてしまった。
　さらに、現金を運搬させた車を、何度も移動させて捜査の的を散らして、最後は、目も眩むような断崖絶壁の橋の上から、現金を落とさせるとは予想外だった。
　結局、犯人は逃亡し、石墨は殺害された。おまけに、現金も持っていかれた。泣きっ面に蜂だった
　正直な所、司法解剖の結果を聞いた清水は少しホッとした。もし、殺害されたのが昨日だったなら、責任を厳しく追及されかねない状況だった。言い訳がましいが、誘拐されて直ぐに殺されていたならば、神でも救出は不可能だ。
　何れにしても、警察の完全な敗北だった。清水捜査官は、長野県警の威信をかけて、誘拐殺人犯は必ず逮捕しなければならないと、心に誓った。そして、捜査員を増員して、目撃情報などの聞き込みを徹底的に行うことにした。

　木内刑事は、４、５日前という石墨の死亡推定日を聞いて耳を疑った。
　それが本当だとすれば、矢崎と石墨は、ほぼ同じ日に殺害された事になる。となれば、捜査は振り出しに戻ってしまう。頭を抱える木内に、金子が話しかけてきた。
「木内さん、司法解剖の結果からすると、矢崎と石墨は、同じ日に殺害されたと言う事っすよね」
「そうだ。当たり間の事を一々、聞くなよ」
　とぶっきら棒に言った。不機嫌さが、口調に出てしまった。
「ありゃ、虫の居所がわるいんですね。」
「第１容疑者が殺されてしまったんだ。おまけに、誘拐事件の方に人員を持っていかれちまった。残ったのは、俺とお前だけだよ。下手したらこの事件はお蔵入りだ」
「そうですかね？俺はむしろ、解決に一歩近付いた気がしますけどね。矢崎と石墨の殺害状況は、酷似しています。おそらく同一犯でしょう。」と顎鬚(あごひげ)をいじった。
「それは違うな。誘拐犯が何故、矢崎まで殺す必要がある」
「それは分かりません。しかし、矢崎と石墨が二夜に渡って密会をした後に、二人は殺されています。つまり、今回の殺人事件には、その密会が大きく関与していると思うんですよ。密会で何があったのかを徹底的に洗えば、何か出てくると思いますね」
　金子が、鼻息を荒くして意気込んだ。
「そしたら、今日はそこを中心に聞き込みをしてみるか」
「そうしましょう。所で、木内さん。矢崎の埼玉の自宅に、何度電話しても繋がらないんすよ。夫人と二人暮らしをしているようなんですが、夫人の行方がつかめないんですよ。それに何故、夫人は、捜索願を出してないんすかね？殺されてからもう４日も経ってるんすよ。おかしくないっすか？」
「そうだな、４日間も連絡がないのに、放っておく訳もないだろうしな…」
「若しかして、今流行りの熟年離婚ってやつですかね。定年後に、急に三行半を突きつけるらしいですね。木内さんも、気を付けてくださいね。捜査ばかりで家族を放っておいてばかりいると、熟年離婚ってことになっちゃいますよ」
「喧しいわい。俺の所は大丈夫だ…と思うけんどなぁ。そういえば、最近、機嫌が悪いなぁ。今夜辺り、ケーキでも買って帰るかな」
　木内は妻の顔を思い浮かべた。

　第２２章　終了

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