朝比奈颯季　ネット小説 / 軽井沢ヴィラ・ヘメロカリス第２４章　密会の場所　：　Satsuki Asahina Web Novel / Karuizawa Villa Hemerocallis

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第２４章
密会の場所

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　第２４章　密会の場所

　ホテル内は、石墨が殺害された事で、物々しい雰囲気に包まれていた。木内は、ホテル内を歩き回り、手当たり次第に従業員を捕まえて聞き込みをした。聞き込みの成果は芳しくなかったが、一つだけ、耳寄りな情報を手に入れることができた。それは、愛子と稲葉の不倫の噂だった。
　若い女性社員二人の証言では、愛子と稲葉が社長室で手を取り合っているのを見たらしい。
「あの二人は間違いなく出来てわよ」
「稲葉室長となら不倫するのも分かる気がするわ。社長なんかと比べ物にならないくらい素敵だもん」
　お喋り好きの二人が、目を輝かせて証言していた。

　木内は、美男子の稲葉が、実際にモテることが悔しかった。その相手が美人の愛子だということが、嫉妬心をかき立てた。モテない男の僻みとは分かってはいる。だが、男は本能的に、女を独占する男に対しては敵愾心を持つものだ。自分の遺伝子を残そうとする雄の本能ともいえるだろう。
　刑事といえども、人の子だ。木内は、稲葉を徹底的に取り調べたい衝動に駆られた。
　他の従業員にも聞いてみたが、噂は広く浸透していた。稲葉と愛子が不倫しているのは間違いなさそうだった。

　しかし、今回の聞き込みの本題は、噂話ではなかった。矢崎と石墨の密会場所を特定するのが、聞き込みの目的だった。
「仕方がない、あいつに、ちょっくら聞いて見るか」
　木内は独り言を洩らしてから、受付に行って、犬養を呼び出してもらった。
　現れた犬養は、何処となく元気がなかった。
「どうも、ご苦労さまです。僕に聞きたい事があるそうで…」
　犬養は、伏し目がちに挨拶をした。
「忙しい所すまんな。それにしても元気ねぇな。どうしただい？」
　木内は犬養の肩をポンと叩いた。
「専務が殺害されたんですよ。元気でいられる訳ないじゃないですか」と寂しげな視線を向けた。
「そうだな。でも、専務はあんたの直属の上司ではねぇだろう？俺なんざ、別に県警本部のお偉方が亡くなっても、大したショックはねぇけどなぁ」
　木内は鼻で笑った。
「木内さん、不謹慎っすよ。それに、このホテルには、県警本部から来た捜査官も出入りしているんっすよ」
　金子が口にチャックをする身振りをした。
「正直言って、専務は人気がありませんでした。仕事の鬼で、部下には厳しい人でしたからね。僕は専務とは、カメラ仲間でした。仕事上の上司と部下ではなかった分、互いに気楽に話が出来る間柄で、仲が良かったんです。刑事さん、何とか犯人を捕まえて下さい。僕は、無念で仕方がありません」
　犬養は涙を浮かべた。
「それは、俺たちに任せてくれや。所で、矢崎と石墨が、殺害される前に密会をしていた場所を知らねぇかい？」
「残念ながら知りません」
「そうか、あんたも知らねぇかぁ」
　木内は肩を落とした。
「あっ、そうだ」
　犬養が言った。
「どうしただ、何か思い出したかい？」
「専務がもし接待で使っているとしたら、経費で払っているはずだから、お店の領収書が経理の方にまわってるかも知れないですね。そっちをあたってみたらどうですか？」
「なるほど、経理か。早速、当ってみよう」
「所で、刑事さん。あのネックレスは誰の物か分かりました？」
「いや、それが分からねぇんだ。従業員に見せて回ったが、誰もしらなかった。若しかして、何か思い出したかい？」
「いや、残念ながら、何も…」
「そうか。忙しい所すまなかったな。もう、行っていいぞ」
「じゃあ、捜査、頑張って下さい」と言って犬養は立ち去って行った。
「石墨が亡くなったのが、余程のショックみたいですね。何時もは人の目を見て、ハキハキ話す彼が、俯いてあまり目を合わせませんでしたね」　
　金子が、犬養の背中に視線を向けた。

　犬養のアドバイスに従って、経理の事務員に聞き込みした。
　その結果、石墨が接待で良く使っていた場所が判明した。「恋時雨」という居酒屋だった。場所は軽井沢ではなく、隣にある佐久市だった。
　木内は、ホテルの幹部に聞き込みをしたかったが、特捜班の清水捜査官が、誘拐事件の事情聴取をしていた。
　地方署の一刑事の身では、県警のエリート警部を差し置いての聞き込みは出来なかった。
　木内は、後ろ髪を引かれる思いで、ホテルを後にして、「恋時雨」に車を向かわせた。

　第２４章　終了

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