朝比奈颯季　ネット小説 / Satsuki Asahina Web Novel : 軽井沢ヴィラ・ヘメロカリス / Karuizawa Villa Hemerocallis : 第１８章愛人の秘密

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　第１８章　愛人の秘密

　電話を終えた寛司は、ベッドから抜け出して、そそくさと着替えを始めた。
「ねぇ、どうしたの」
　のぞみは、ベッドの上から尋ねた。
「専務が誘拐されたらしい。これから、急いで軽井沢に帰らなくてはいけなくなった」
「専務が、誘拐ですって…」
　のぞみは、驚きで言葉が続かなかった。

　のぞみが、寛司と初めて会ったのは、熱海の飲み屋だった。
　のぞみは、数年前から熱海のキャバクラで働いていた。
　そこに寛治を連れてきたのが石墨だった。
　石墨は、数年前まで熱海で仕事をしていて、その時から、のぞみのパトロンだった。
　のぞみが寛司に近付いたのは、石墨の指示だった。
　寛治を籠絡する事が出来たら、将来、自分の店を持たせてやるという約束を交わしていた。
　豊満な肉体をチラつかせて寛司を誘うと、夜火に飛び込む夏虫の如く、寛治はのぞみの体に惑い狂った。
　のぞみは寛司と性交する前に、絶倫ドリンクと称して、媚薬を飲ませていた。
　それは、石墨から貰ったもので、バイアグラと合法ドラッグを混ぜたものだった。
　寛司は、それを飲むと野獣のように激しくのぞみの体をむさぼった。

　のぞみは、以前、妻を愛しているのかと寛司に尋ねたことがあった。
　その問いに対して、妻は単なる仕事上のパートナーでしかない。
　もう愛してはいないと答えた。
　のぞみは、その言葉を聞いてから、虎視眈々と社長夫人の座も狙っていた。
　寛司には子供がいない。
「子供は欲しいが、ここ数年は、妻とは夜の営みは皆無(かいむ)なんだ」と寛治が愚痴を零していた。
　もし、のぞみと寛治との間に子供が出来れば、妻を追い出して、自分が後妻(ごさい)に座る事が出来る、のぞみは、そう考えていた。

　のぞみは、石墨の会社を乗っ取ろうとしている事を知っていた。
　その上で、したたかに二人を両天秤(りょうてんびん)に掛けていた。
　石墨の計画が上手く行ったなら、寛司を切って、自分の店を出せる。
　もし、計画が失敗した時は石墨を切って、社長夫人の座を手に入れる。
　どっちに転がっても、上手くやっていく自信があった。
「ねぇ、寛司さん。私も軽井沢に付いて行っていい？」
　のぞみは、甘えるように言った。
「えっ、それは困るな」
「あなたの家に押しかけようって訳じゃないないのよ。寛司さんと、離れるのが寂しいの。お願い、私は適当に、ホテルにでも泊まるから、時々、会いましょうよ」
「うーん、しかし、専務が誘拐されたとなると、会っている暇はないかも知れないな」
「でも、夜中ぐらいは、こっそり出てこられるでしょう？」
　のぞみは、全裸のまま布団から出てきて、寛司の項(うなじ)に手を這わせた。
「分かったよ、貸し別荘を手配しよう。ホテルだと人目もあるしな」
「ありがとう。じゃ、私も着替えなきゃ」
　のぞみは、ベッドに散乱した下着を拾って、着替え始めた。

　第１８章　終了

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