朝比奈颯季　ネット小説　軽井沢ヴィラ・ヘメロカリス　第１２章　専務の野望

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第１２章
専務の野望

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　第１２章　専務の野望

　石墨は、ヴィラ・ヘメロカリスに着くと、受付のホテルマンに手伝わせて、矢崎を部屋まで運んだ。その後、執務室でインスタントコーヒーを入れて椅子に深々と腰を沈めた。
　石墨は思わず、大きな声を出して笑った。
　ついに、稲葉を追放できるネタを掴んだ。
　彼の仕事ぶりを見ていると、嫉妬するほど有能だ。
　しかも、自分にはない部下からの篤い人望もある。
　自分も部下を引っ張っていく馬力では、負けていないが、頭の回転やアイデア、スピードでは勝てない。
　しかし、稲葉の運命は自分が握ったのも同然だ。
　不倫相手が愛子という事が証明されれば、この会社から去るしかない。
　最近の会議で、彼の発表を聞いていると、札幌のプロジェクトは成功しそうだ。
　今はまだ泳がせておいて、プロジェクトが軌道に乗った所で、奈落の底へ付き落としてやる。
　そして、札幌の甘い蜜も、かつての部下の相沢清子も、ごっそり頂戴してやる。

　稲葉を失脚させた後のターゲットは、社長の寛司だ。
　彼は有能な男とは言え、これまでの成功で完全に兜(かぶと)の緒が緩んでいる。
　今では、石墨があてがった熱海の女に、どっぷりと溺れている。
　矢崎を、パンフレットの仕事という餌で釣って、証拠写真を撮る手筈も整えた。
　興信所を使っても良いが足が付かないとも限らない。
　その点、個人的に雇った方が、自分の思ったよう扱いやすい。

　双方の不倫を暴露すれば、社長夫妻の仲は修復不可能となり、離婚となるだろう。
　そうなれば、愛子もいなくなり、星川観興は完全に骨抜きだ。
　陰謀の仕上げは、心中事件だ。
　寛司が愛人と熱海の海から死体であがれば、警察は簡単に騙せるだろう。
　熱海一円に縄張りを持つ暴力団の組長に頼めば、心中の偽装など造作もないことだ。
　社長以下３人が居なくなれば、この会社を乗っ取るのは赤子の首を捻るよりたやすいことだ。

　そうなると、残る懸案は、大規模開発だ。
　地元の反対派がここにきて勢いを巻き返してきている。
　ナショナルトラスト運動を展開し、建設予定地の一部を買い上げる動きを見せている。
　奴らを何とか封じ込めなければいけない。
　熱海で世話になった組長に頼みたいのは山々だが、軽井沢は暴力団のシマが違うので、迂闊に頼むことはできないのがもどかしい。

　稲葉、寛司、愛子の命運は握ったも同然だ。
　だが、愛子ほどの良い女を見逃すのは勿体ない。
　何とか自分の女にできないだろうか…と腕組をして思案していると、ふと、妙案が閃いた…
　上手くいけば、愛子も自分の手中に収める事ができる。
　更に、大規模開発の反対派にも、大打撃を与える事ができる。
　その妙案に、石墨は、思わずほくそ笑んだ。

　石墨は、ホテルの従業員用の自転車に乗って、近くのコンビ二へ向かった。
　店内に入ると、茶髪のギャルが数人いた。
　ピッチリとしたＴシャツでへそを出し、短いパンツからはヒップの端が見えそうだった。
　彼女たちは、キャピキャピはしゃぎながら、酒やつまみを買い揃えていた。
　はち切れんばかりの肉体を見た石墨は、メラメラと情欲が高まり、下っ腹がムクムクと熱くなり、熱海にいる愛人に会いたくなった。

　石墨は、封筒と便箋、手袋の三品を購入した。
　その後、携帯電話を取り出して、愛人に電話を掛けた。
「のぞみ。俺だ。元気にしているか」
「えぇ、元気よ。どうしたの、最近、顔を見せないじゃない」
「この所、忙しくてな。あともう少しで、軽井沢での仕事も一段落する。後もう少ししたら、熱海に行くよ」
「そんな事言わないで、今夜、来てよ。」
「今夜は、まだ大事な仕事が残っているんだ。その内、たっぷり可愛がってやるから待っていてくれ。それと、社長の方は、どうだ？上手くやっているか？」
「えぇ、あの人はもう私の虜よ」
「そうか、その内、不倫の証拠を取る為に、カメラマンを送るから、望遠で撮影できる部屋を探しておいてくれ」
「分かったわ」
「いいか、のぞみ。裏切るなよ」
「そっちこそ、きちんと約束は守ってね」
「あぁ、任せておけ。じゃあ、また後で連絡する」
　石墨は、電話を切ってから、自転車でヴィラ・ヘメロカリスへと戻った。

　第１２章　終了

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