朝比奈颯季　ネット小説　神成探偵社の事件簿1～支笏湖に消ゆ～　第１６章　小説

　第１６章　手紙

　真之は、百合が原公園で和子と偶然再会してから、大学と会社を行き来する時には必ず、公園に立ち寄った。
　駐車場に車を停め、早足で公園内を一周して、彼女の姿を探した。
　何度も立ち寄ったが、あの日以来、和子を見つける事は出来なかった。
　若しかしたら、あの日は、偶然、遊びに来ていただけなのかもしれない。

　偶然、和子と再会した事で、彼女の娘が自分の子供かもしれないという疑念が、頭の中で増幅した。
　確かめたいという衝動を抑える事が出来なくなり、和子に手紙を出すことにした。
　パソコンのキーボードでメールや論文を書くこと事には慣れていたが、自筆で書こうとすると、なかなか進まなかった。

　拝啓
　藤の花が咲き匂う頃、如何お過ごしでしょうか？
　先日、10年振りに再会した時は、本当に驚きました。
　お互いに年は取りましたが、君は相変わらず若々しいですね。

　さて、本題に入りたいと思います。
　同窓会で君の娘が、僕の子供ではないかという噂を聞きました。
　最初は、そんな馬鹿なと思いましたが、確かに君の娘が生まれた日から計算すると、僕と付き合っていた頃に出来た子供という可能性もあります。
　10年も前のことですが、あの頃は避妊具を付けていなかったように記憶しています。
　僕は、君と結婚するつもりでしたから、出来たら出来たで良いかなと思っていたし、君も避妊についてはうるさく言ってなかったので、もし子供が出来たなら、君も僕と結婚しても良いと考えていたのだと、思っていました。
　今でも時々思うのですが、もし僕が渡米しなかったら、君はプロポーズを受けてくれたのではないかと…
　しかし、今さら、二人のタラレバ話をするのが手紙の本懐ではありません。
　僕の娘であるかも知れない由美子ちゃんに付いて、君と二人で話をしたいのです。
　手紙では語りつくせません。
　直に会って聞きたい事がたくさんあります。

　君が僕の子供を妊娠していたという話は、青天の霹靂(へきれき)でした。
　その話を聞いて以来、研究に身が入りません。
　それ程、僕は困惑しているのです…
　心の一部分が、スッポリと抜け落ちてしまったような気分です。
　一度会って、話をさせて下さい。
　会ってくれるまで、何度でも手紙を送るつもりです。
　今すぐにでも、あなたの家を訪問して話をしたいくらいです。
　しかし、あなたは既に家庭を持っている身です。
　押しかけるは申し訳ないと思い、今回は遠慮しました。

　しかし、もし会ってくれないのならば、その時は、直接、電話するか、訪問したいと思います
　住所や電話番号は、同窓会の幹事をしていた中村から教えてもらいました。
　実はもう、何度かあなたの家を、何度か見に行きました。
　その際、こっそりと、由美子ちゃんを見ました。
　君に似た可愛らしい女の子ですね。
　何となく、僕にも似ているかなと思いました。

　誤解されるといけないので、僕の考えを言っておきますと、親権が欲しいとか、由美子ちゃんに、自分が本当の父親だと名乗り出るつもりはありません。
　僕もそこまで、おこがましくはありません。
　僕はただ、由美子ちゃんが、僕の子供であるのかどうかを知っておきたいのです。
　それを知っておかないと、今後の人生を確りと歩んでいけません。
　若しこの世に、自分の娘が存在していたとしたら…
　愛していた君との子供となれば、僕の心が掻き乱されるのも無理はないと、君は理解してくれると思います。
　僕は、金銭的な援助だけでもしたいのです。
　それで、父親の責任が全うできるとは思っていませんし、自己満足だということも分かっていす。
　しかし、そうせずにはいられないのです。

　先ずは、会う日取りを決めたいと思います。
　旦那さんや、子供たちがいては外出するのも大変でしょうから、取り敢えず、来週の水曜日の正午に、二人が　再会したあの藤棚の前で会いましょう。
　必ず来てくれると信じています。
　もし、都合が悪い場合は、下記の僕の住所まで返信を下さい。
　来週、会えるのを楽しみにしています。

　～追伸～　
　差出人の名前は、ご家族に怪しまれるといけないと思い、大学時代の女友達の名前を拝借しました。

　敬具

　札幌市北区屯田(とんでん)南４条東９丁目100番地　　西嶋真之

　第１６章　終了

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