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第２０章 由美子の不安
由美子は、洗面所で化粧を落としてから寝室に戻ってきた。
父親が顔を蒼白にさせて、幽霊のように立ち尽くしていた。
その手には一通の封筒が握られていた。
「パパ、どうしたの。怒ってるの？」
「いや、怒ってなんかいないよ」
「したけど、パパ。何だかおっこない顔してるんだもん」
「由美子、お前はこの手紙を読んだのか？」
「何も、読んでないよ。」
「そうか、それならいいんだ。今日、悪戯して化粧していた事はママに言わないから、この手紙をパパが見たという事も、ママに言ってはいけないよ。分かったね」
父親の声は、震えていた。
眉間に皺を寄せて、由美子を見詰めた瞳は悲しみに満ちていた。
いつもの父ではなかった。
化粧ごっこをしたぐらいで、こんなにピリピリした雰囲気になるなんて…
由美子は、嫌な気分で寝室を後にして自分の部屋に戻った。
その日の夕食の時、父は、いつもと違っていた。
いつもだったら、テレビを見て笑ったり、出演してるタレントを馬鹿にしたりするのに、無反応で、何かを考え詰めているようだった。
普段なら、パパどうしたのと気兼ねなく聞けるのだが、化粧ごっこを見られてから機嫌が悪くなったので、父親に話しかけることが出来なかった。
由美子の心配を余所に、弟の幸明は家の中を動き回って遊んでいた。
寝る前だと言うのに大好きなサイダーを冷蔵庫から持ち出してラッパ飲みしていた。
全く、暢気なものだ。
「幸明、いい加減、もう止めれ。寝る前にサイダーをそんなに飲んでたら、オネショしちゃうっしょ。小学生になったんだから、もうオネショしないでね。おねしょしても、洗濯してあげないよ。自分で洗いなさいよ」
と母に叱られた。
幸明は、母親に連れられて洗面所へ行き、葉を磨かされた。
由美子も一緒に、歯を磨いてから、幸明を連れて子供部屋に行って布団に入った。
今日の出来事が心配で、なかなか、寝付けなかった。
第２０章 終了
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