朝比奈颯季　ネット小説　神成探偵社の事件簿1～支笏湖に消ゆ～　第２１章　夜の小便

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支笏湖に消ゆ　；　神成探偵社の事件簿１

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神成探偵社の
事件簿１
-支笏湖に消ゆ-

第２１章：
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　第２１章　夜の小便

　幸明は、小学校の屋上で将太と遊んでいた。
　将太がダッシュして飛び降り防止用の柵を乗り越えて、屋上の縁に立った。
「将ちゃん、そんな所に立ったら危ないっしょや」
「大丈夫だよ。そんな事を言ってる奴は臆病者だ。幸明もこっちゃ来いや。なまら良い眺めだべさ」
　幸明は、誘われるがまま、将太の隣に行った。
　下を除くと、校庭の生徒が蟻んこみたいに小さく見えた。
　地上を歩いている時には、高く見えたポプラも、指で摘める程にちっぽけだ。
「よし、幸明。連れションするべや。一回、こんな高い所から立ちションしてみたかったんだわ」
　将太は、ズボンのチャックを下ろし始めた。
「ちょ、ちょっと将ちゃん。先生に見つかったら、叱られちゃうっしょや。やめとき」
「大丈夫だって。こんたに高いんだもん。誰もうちらの顔なんて分かんねぇべさ。ほれ、幸明も、良い振りなんてこいてないで一緒に立ちションするべや。ほれ、ほれ」
「しょうがねぇな。まぁいっか。実は俺も、ちょうど小便したかったんだ」
　幸明も将太に倣って、ズボンのチャックを下ろして、パンツの下から一物を陽光に晒した。
　放たれた尿が、放物線を描いて地上に降り注いで行った。

　幸明は、ハッと我に返った。
　ベッドで目を覚まして、咄嗟に自分のパンツに手を当てた。
　濡れていなかった。良かった…と胸を撫で下ろした。
　二段ベッドの上にいる姉の由美子は、スヤスヤと寝息を立てていた。
　幸明はベッドから起き上がり、ドアを開けて、トイレに向かった。
　オシッコがしたくて堪らなかった。
　廊下の奥にある居間には、電灯が付いていた。
　両親は、まだ起きているようだった。
　トイレに起きた事がばれたら、
「あんなにサイダー飲むからっしょや。もう、サイダーは飲ませないよ」
　と母に小言を言われる気がしたので、こっそりと廊下を歩き、トイレのドアをそろりと開けて中に入り、用を足した。

　トイレから出た幸明は、居間の方で何か言い合っている両親の声を聞いた。
　穏やかでない雰囲気を感じた幸明は、忍び足で廊下を歩き、ドアの手前で身を忍ばせて、恐る恐る部屋の中を覗いた。

「もし、俺の言う事が聞けないなら離婚だ」
　普段見せた事もない形相をした父が、母に向かって言った。
　その光景を見た幸明は、氷り付いた。
「何を馬鹿な事を言ってるの。だから何度も言ってるっしょ。由美子は間違いなくあなたの子です」
「その証拠はあるのか？」
「母親の私が言ってるんだから、それが証拠です。それに、あの子が生まれた時の母子手帳もあります」
「母子手帳なんか当てになるか。書き換えようと思えば、簡単に書き換えられる」
「そこまで私の言う事が信じられないんですか？」
「お前の事はずっと信じ続けてきた。したけど、お前は、昔の男の手紙を隠していた。しかも、そこに書かれていたのは、由美子がそいつの子供かもしれないという事だ。しかも、俺が手紙を見つけてなければ、お前は俺に内緒で会いに行っていただろう」
　父が、テーブルを叩いて母を睨んだ。

「行こうと思ってたのは、しっかり話して納得してもらおうと思っただけなんだわ、信じてよ」
「信じたいのは山々だが、正直言って今は無理だな」
「したら、私はどうすればいいのさ」
「さっきも言った通り、この西嶋という男には会うな。どんな理由があっても絶対にだ」
「したけど、手紙の文面からすると、私が彼に会わないと、由美子にばらすかも知れないっしょ。彼の事は大丈夫、きちんと説明すれば分かって貰えるから心配しないで」
「夫の俺を納得させれないのに、昔の男は納得させられるっていうのか？それにお前は、そいつと別れる前まで関係があったんだろう、そう手紙に書いてあった」
「それは、彼の勘違いだわ。別れる前から長いこと関係はなかったんだわ。それは、あなたと付き合う時に、ちゃんと話たっしょ」
「俺と付き合う時には、前の男とは完全に別れたと言っていたが、それも嘘だったんだな。二股をかけていたんだろう」
「違うわ、ちゃんと別れてたわよ。私のいう事がそんなに信じられないの？」
「あぁ。こうなった以上、ＤＮＡ鑑定をしてもらおう」
「あなた、そこまでする気なの。そんなに私の言う事が…」
「あぁ、信じられないね」
「お願い、そんな事はしないで、私を信じて」
　母の目から涙が零れた。

「泣いたって駄目だ。もしそれが出来ないなら離婚だ」
「分かりました。彼には会わないし、ＤＮＡ鑑定だが何だか知りませんが、あなたの納得できるようにしたら良いしょや。したけど、私の言う事を信じないで、どうなったって知りませんから」
　母は、泣きながら言った。
　そして、父を睨んでから背を向けて隣のキッチンへ行った。

　幸明は恐くなって、べそを掻きながら自分の部屋へ戻った。
　ベッドの上で布団を被って考えた。
「お姉ちゃんが、パパの子供でないってどういうことだ？結婚しないと子供が出来ないってママが言ってたのに…パパとママは結婚してるんだから、お姉ちゃんがパパの子供でない訳がない。なのに何故、パパとママは喧嘩してたんだろう？」
　幸明は、頭が混乱した。

　第２１章　終了

　　

　　　　　　　　　　
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