朝比奈颯季 ネット小説
支笏湖に消ゆ ; 神成探偵社の事件簿1 ホームヘ( Home ) 目次ヘ(Index )


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 第29章 厄日

 娘の姿を探して、文忠は車を運転した。
 近くの農試公園も探してみたが、見当たらなかった。
 それでも諦めずに、周辺をシラミ潰しに探した。

 交差点を過ぎた所で、自転車が急に右から現れて、文忠はハンドルを左に切った。
 飛び出してきた自転車に気付くの遅れた。
 車体の前方が街路樹にぶつかった。
 幸いにして、自転車には掠った程度だった。

 文忠は、車を降りて、自転車に乗っていた青年に駆け寄った。
「君、大丈夫かい?」
「あぁ、大丈夫です。少し掌を擦りきったぐらいですから」
「それなら良いんだが」
「ごめんなさい、僕、信号をよく見ないで交差点にはいっちゃったんで」
「あぁ、私も気付くのが遅れてしまったみたいで、申し訳ない。それよりも、本当に大丈夫なのかい?病院に言って検査した方が良いよ」
「大丈夫ですよ。どこも打ってないし、本当に転んだだけですから」
「一応、事故として警察に届けよう」
「別に警察沙汰にしなくても平気ですよ。掠った程度だし。それに、僕、今バイトに向かう途中で、急いでるんです。警察まで行くとなると遅刻しちゃうんで」
「君が大丈夫なら、無理にとは言わないけど」
「大丈夫です。じゃぁ、僕、急ぐんで」
 青年は、自転車を起して、何もなかったかのように走り去った。
 文忠は、街路樹にぶつかったバンパーを見た。
 少し凹んでいた。
 今年、買ったばかりの新車のエスティマに、早くも傷が付いてしまった。

 妻とは大喧嘩をするし、娘は家出するし、車で事故るし、今日は厄日だと、文忠は溜息を付いた。

 第29章 終了

            
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