朝比奈颯季　ネット小説　神成探偵社の事件簿1～支笏湖に消ゆ～　第２７章　家出

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支笏湖に消ゆ　；　神成探偵社の事件簿１

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神成探偵社の
事件簿１
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　第２７章　家出

　由美子は、朝から父の様子が気になった。
　最近は、仕事も忙しいらしく、平日は朝食ぐらいしか一緒に過ごしていなかった。
　朝食の時間も、最近は、何だかムッスリとして無口だった。
　今朝は、何時もに輪を掛けてダンマリして、ピリピリした雰囲気だった。

　朝食を食べ終えてから、由美子は、弟と一緒に学校に向かった。
　学校の校門が見えた所で、由美子は忘れ物に気付いた。
　しまった、トレパンを忘れてしまった。
　今朝は、何だか父親の様子がおかしかったから、それが気になっていたせいだと由美子は思った。
　今ならまだ、ダッシュして戻れば間に合う。
　由美子は、弟を先に行かせて踵を返した。
　子供たちが学校へ行った後、いつもなら直ぐに会社へ向かう文忠がソファで新聞を読んでいた。
　和子は、どうしたのだろうと、新聞越しに話しかけた。
「あなた、今日は、出社が遅いのね」
「実は、休暇を取ったんだ」
　文忠は、新聞を下ろして和子を見詰めた。
「あら、珍しいこと、どういう風の吹き回し？」
「お前に話がある。ちょっと、ここで待ってろ」

　文忠はダイニングから出て、何か書類のような物を携えて戻ってきた。
「この封筒の中身を見てみろ」
「何かしら？」
　和子は、封筒から中身を取り出した。
　写真が入っていた。
　喫茶店で和子と真之が話をしている写真だった。
　和子の手がワナワナと震えた。
「あなた、この写真はどういうこと？」
「それはこっちの台詞だ」
「興信所に頼んで私を監視してたの？」
「あぁ、そういうことだ」
「酷い。あんまりだわ」と目頭を押さえた。
「何が酷いだ、ふざけるな。絶対に、西嶋と会うなと言っただろう。俺との約束を簡単に踏みにじったのはそっちだろう」
「私なりに必死に、家族を守ろうとしたのよ。それなのに、あなたは…」
「ふん、どうだかな。西嶋は、先端医薬研究所の出世頭らしいじゃないか。その上、ベンチャー企業の社長もしているそうだな。新聞で特集されていたよ。昔の男が出世して、嬉しい限りだろうな」
「それはどう言う意味？」
　和子は、鋭い視線で夫を睨んだ。

「言葉の通りだよ。ふん、俺はしがないサラリーマンだからな。若しかしてお前、由美子をだしに使ってヨリを戻そうなんて考えてないだろうな？」
「あなた、それ本気で言ってるの？」
「俺だってこんな事言いたくはないさ。お前の行動が、そう言わせているんだろう」
「それは、あんまりだわ」
　和子は、涙をこぼした。
「泣きたいのはこっちだよ。お前は、由美子が、他の男の子供かも知れない事を隠してきたんだ。俺を裏切りやがって」
　文忠は、悔しさのあまり、手が出た。

　平手で頬を打たれた和子は、泣きながらテーブルの上にうっぷした。
　その時、ダイニングのドアが開くがした。
　目を向けると、由美子が立っていた。
「パパ、何してるの。ママを苛めないで」
　由美子は、和子の隣に駆け寄って庇った。
「パパの馬鹿。ママを殴るなんて酷いっしょや」
　由美子は、凛然と文忠を睨んだ。
　その視線を浴びて、文忠は一瞬たじろいだ。娘の目には、憎悪と軽蔑が籠もっているように感じた。

　若しかして、由美子は、化粧台に隠してあった手紙を読んでいたのでは…という疑念が浮かんだ。
　文忠は、何もかもが信じられなくなった。
「お前もパパを裏切るつもりなのか？」
「裏切るって何のことさ」
「しらを切るな。お前も知っているんだろう」
　文忠は怒鳴ると同時に、娘の頬を叩いた。
「パパ、酷い。由美子が何をしたって言うんさ」
　由美子は頬を押さえて涙を堪えた。
「お前も知っていたのか？お前が、パパの娘でないかも知れないってこと…あの手紙を見たんだろう」
「パパの子供でないってどういうことさ」
「ママは、パパと付き合う前に、他の男と付き合ってたんだ。お前は、その男の子供かも知れないんだ。化粧台にママが隠してあった手紙は、その男から来たものなんだ」
「嘘よ、ママ。嘘でしょ？」
「由美子は、パパの子よ。それは間違いないわ」
「ママは、嘘を付いているんだ。ママは、パパに内緒で、その男と会っていたんだ」
「そんな、したら私は、私は…」

　由美子の目から、涙が溢れた。
「信じて頂戴。由美子は、間違いなく…。あっ、由美子、待ちなさい」
　由美子は、家を飛び出した。
　和子は追いかけた。
　しかし、由美子は、マウンテンバイクに乗って走り去ってしまった。

　事の重大さに気付き、我に返った文忠は、家の周辺を、歩いて探した。
　しかし、由美は見当たらなかった。
　探しながら自分の行動を悔いた。
　感情を抑えきれずに、妻を殴り、そして、娘まで殴ってしまった。
　彼女たちを殴ったのは初めてだった。

　家に戻ると、玄関には由美子のランドセルが転がっていた。
　文忠は殴った事を、和子に謝った。
　和子は、不機嫌そうな顔をしていが、許してくれた。
　由美子はマウンテンバイクに乗って出て行ってしまった。
　徒歩なら行動範囲も限られるが、自転車となるとかなりと遠くまで行ける。
　文忠は、車を出して、探しに出かけた。

　第２７章　終了

　　

　　　　　　　　　　
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