関連リンク：
Zippo（ジッポー）
スリーディメンション
金子ノブアキ
RUDO (ルード)
2010年 06月号
[雑誌]
1/24インチアップ
ディスクシリーズ21 DC2
インテグラ タイプR '95
自然ガイド 支笏・樽前
[単行本]
Perfume
優香写真集
[大型本]
山下智久 主演
あしたのジョー
＜Blu-ray＞
プレミアム・エディション
（特典DVD付２枚組）
井上和香
2004年度カレンダー
ファイブスター
優香/Breath
[DVD]
井上和香
和香白書
[DVD]
優香
be [DVD]
金子ノブアキ
RUDO (ルード)
2010年 09月号
[雑誌]
井上和香
2005年度 カレンダー
[大型本]
Rhythm & Drums magazine
2010年 07月号
(CD付き)[雑誌]
明智小五郎読本
[単行本]
横溝正史
金田一耕助の事件簿
コミック (秋田文庫 66-1)
[文庫]
 石狩鍋セット
井上和香
2007年 カレンダー
BIKINIES
ヤングマガジン特別編集
[大型本]
井上和香
山下智久 主演
クロサギ DVD-BOX
NEWS 山下智久
Photo&Episode Dynamic
(RECO BOOKS)
[単行本（ソフトカバー）]
山下智久
お宝フォトBOOK 輝(Ki) (RECO BOOKS)
[単行本]
山下智久
抱いてセニョリータ
(ＣＤ通常盤)
新品未開封CD
山下智久
SUPERGOOD,
SUPERBAD
初回盤
白虎隊
DVD-BOX（3枚組
山下智久
2011年度
卓上フォトスタンド
カレンダー
（山下智久）
Zippo（ジッポー）
スリーディメンション
Perfume
優香写真集
[大型本]
ファイブスター
優香/Breath
[DVD]
優香
be [DVD]
優香写真集
Zip-Yuka
first photo book
[大型本]
優香 to
[DVD]
エキノコックス
その正体と対策
(北大選書 14)
[単行本]
寄生虫のひみつ
ムズムズするけど
見てみたい
「はらのむし」たちの世界
(サイエンス・アイ新書)
優香
Yuka
[DVD]
セクシー和香
さらに色気アップで登場!
2010
スーパーヒットカレンダー
井上和香
小樽スイートハウス
フルムーン
まるで秋の満月の
ようなスイーツです
 |
第５５章 嫉妬深き乙女
星は、オコタンペ湖の湖畔から安西刑事と一緒に歩いて展望台まで戻ってきた。
安西刑事は、第４の殺人事件の現場を押さえてみせると躍起になり捜索班の手配を進めていた。
そんな安西刑事を尻目に、星は深い緑に囲まれたオコタンペ湖を眺めていると、安西刑事が寄ってきた。
安西刑事は、口にしたタバコにジッポウライターで火をつけて、旨そうに煙を吐いた。
「星さん。必ず第4の殺人を阻止して見せますよ。私の第６感が支笏湖周辺の恵庭渓谷や口無沼が怪しいと言っています。私はこれから捜索がありますので失礼します」
安西刑事は、敬礼して、パトカーに乗って走り去った。
参照地図 ： 恵庭渓谷
星は、再び湖面を眺めながら、オコタンペ湖の殺人事件を推理した。
今回、殺害されたのは、竹上を殺そうした二人組の若い男だったが、何故、一日遅れで殺されなくてはいけなかったのか？
そして、現場には男と女の足跡があった。
女の方は葉山美絵だとして、男は誰だろか？
関西弁の男と、三ツ橋は既に死亡している。
竹上は警察に拘留中だし、西嶋は自殺をはかり意識不明で入院中だ。
由美子の父である文忠は、昨夜、星と一緒に石狩湾で夜半まで由美子を捜索していた…
とすれば、裏で糸を引いている三ツ橋製薬の関係者だろうか？
頭を抱えて悩んでいると、携帯電話が鳴った。
「もしもし、芳恵です。今、病院のロビーなんだけど、さっき、真之さんの意識が戻ったわ」
「容態はどうですか？面会できそうですか？」
「まだ少しボーっとしているみたいだけど何とか会話は出来るわ」
「分かりました。したら早速、病院に向かいます。確か大学病院でしたよね？」
「ええ。内科の入院病棟の集中治療室(ＩＣＵ)の337号室よ。所で今、何処に居るの？ススキノの事務所？」
「いや、支笏湖の近くにあるオコタンペ湖の展望台にいます」
「オコタンペ湖で観光なんて、随分と余裕があるわね？」
「観光じゃないですよ。実は今朝、オコタンペ湖で身元不明の男の遺体が発見されたんです。それで急遽、オコタンペ湖に来たんです」
「殺されたは誰？」
「竹上を殺害しようとした二人組の若い男でした。しかし、詳しい素性は分かっていません」
「何だか不気味ね…事件に関わった人間が次々と死んでいくわ。三ツ橋准教授、2人のヤクザ…でも不思議ね。殺された3人は、全員竹上を殺そうとした人間ね」
「確かにそうですね…竹上に再度、話を聞いた方が良さそうだな。安西刑事にお願いしてみるか。したら、芳恵さん、先ずはこれから大学病院に向います」
「したら、事故らないように気を付けてね。3階のロビーで待っているわ」
「したら、ロビーで」
星は、電話を切り、愛車に乗り込んで、支笏の森を貫く道路を疾走して札幌へと向った。
星は病院に到着してから、３階にエレベーターで上がった。
エレベーターを出ると、長椅子の並んだロビーがあって、そこで、芳恵が二人の男女と口論していた。
「一体、どうしたんですか？」
星は、後ろから声を掛けた。
「あんた、誰だい？」男が言った。
「部外者は引っ込んでなさいよ」
女は、喧嘩腰な口調で言った。
「星武揚という者です。探偵をしてまして、クライアントは安浦芳恵さんです」
と言って星は、名刺を二人に渡した。
「二人は、鈴木大貴さんと、藤森涼子さんで、真之さんの研究室の教え子よ」
芳恵が、紹介した。
「安浦さん、何のために、こんな怪しげな探偵を雇ってるの？」
涼子が、言った。
「特許訴訟の事件を調査をお願いしているの」
「あなた馬鹿じゃないの。特許訴訟に必要なのは、弁護士と弁理士でしょう。何で、探偵が必要なのよ？」
涼子は、星を見下すような態度で言った。
「藤森さんは詳しく知らないと思うけど、今回の訴訟は、単なる特許訴訟じゃなく、相手側に盗用の疑惑があるのよ。だから、盗用の証拠を掴むために、星さんに仕事をお願いしてるのよ。現に、警察も動いているし、この盗用事件に絡んで殺人事件も起きているわ」
「盗用の話は真之さんから聞いてるわ。だからと言って、こんなうだつの上がらなさそうな探偵を頼むのはどうかと思うわ。それに探偵を頼んでいる事を真之さんは承知しているの？」
「余計な心配はしてもらわなくても結構です。真之さんは承知しているし、星くんの探偵としての能力は実証済みよ。重要参考人が殺されそうになった所を救ってくれたのよ。その人の証言から、特許盗用の全容解明も出来たわ。それで、警察も動き出したのよ」
芳恵と涼子は、睨み合ったまま嫌な沈黙が続いた。
「あなたが、探偵の星さんですか。話は西嶋教授から聞いています。さっきは、失礼な事を言ってすいません」
鈴木が、会釈をした。
「おっしゃる通り、こんな汚いナリをしてるんで、不信に思われても仕方ないですよ。所で、先ほどは何を口論されていたんですか？」
「この女が、真之さんとの面会は許可できないって言うから、文句を言ってたのよ」
藤森が、言った。
「お見舞いに来て頂いたのはありがたいけど、今は面会謝絶だからしょうがないっしょや」
芳恵も、不機嫌に答えた。
「ふん、彼女だか愛人だか知らないけど、何を偉そうに」
藤森は、腕組みして、芳恵を睨んだ。
「何よその言い方は。主治医が面会謝絶って言っているんだから従いなさいよ」
「1時間前にお見舞いにきた権堂先輩は、面会したって言っていたわ」
「それはさっきも説明した通り、意識が回復して、家族やお見舞いの人と話をしたけど、それで疲れてまた眠ってしまったのよ。時間が経って、また意識が回復したら話が出来る状態になるから、それまで待っててと言ってるんでしょう。あたなも物分りの悪い女ね」
芳恵は、強い口調で言った。
「理由は、それだけじゃないでしょう？」
藤森は、鼻で笑うように言った。
「どういう意味よ」
「はっきり言ってあげる。あなたは私に嫉妬してるのよ。それで、私を真之さんに会わせたくないだけなのよ」
「何故、私があなたに嫉妬しなきゃいけないの。馬鹿じゃないの」
「あら、馬鹿はあなたよ。何も知らないのね。まぁ、知らない方が幸せってこともあるから、言わないでおくわ」
「何よ、言いかけたなら言いなさいよ。一々、頭に来る女ね」
芳恵は、藤森にじり寄った。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてよ。病院でいがみ合っていてもしょうがないじゃないか」
鈴木が、二人の間に入って制した。
「私は冷静よ。ただ、この女がわざと癪に触る事を言ってくるのよ」
芳恵が、唇を噛んだ。
「それはこっちの台詞よ。何よ、偉そうに。真之さんの奥さんにでもなったつもりなの？それに、あなた、特許を盗用した三ツ橋准教授のいる札幌医薬大の博士課程だそうね？」
「同じ大学だけど、研究室は違うわ」
「怪しいわね」
「ちょっと、それ、どういう意味よ？」
「はっきり言ってあげる。私は、あなたも特許盗用事件に関与しているんじゃないかって疑ってるわ」
「ふざけないでよ。私の苦労も知らないで、このアバズレ女。もう我慢できない」
芳恵は、金切り声を上げて、平手を振り上げた。
鈴木が、二人の女の間に入って仲裁した。
「二人ともやめてくれ。仲間うちで争ってもしょうがないだろう」
「私、悔しくてしょうがないのよ。鈴木さんは悔しくないの？一番頑張って研究してたのは、鈴木さんじゃないの。その研究の特許を盗用されたのよ」
藤森は、涙目になった。
「そりゃ悔しいさ。でも芳恵さんは、盗用事件には関係ない。寧ろ、彼女は僕らの特許を守るために、一生懸命働いてくれていた。涼子ちゃんの悔しい思いは僕も良く分かる。でも、憎むべき相手は他にいる。芳恵さんに八つ当たりしちゃ駄目だよ。分かったかい」
「鈴木さんが、そこまでいうなら分かったわ」
藤森は、涙を拭って頷いた。
大喧嘩の後、星は別室に移って芳恵と話をした。
「芳恵さん、大丈夫ですか？」
星は、言った。
「大丈夫って言いたい所だけど、さすがにちょっと凹んじゃった」
芳恵は、大きく溜息をした。
「西嶋教授に、いろいろと聞きたい事があったんですが、さっきの話だと、しばらく駄目そうですね？」
「ごめんね、私の方から呼んだにも関わらず。ただ、解毒も順調に進んでいるからもう峠は越えたとでしょう。ただ、まだ精神的に不安定な状態だから長時間の会話はできないみたい」
「そうですか…西嶋教授には、係争中の特許に関わった人物について、教えてもらおうと思っていたんですが」
「それだったら、さっきの二人に聞けばいいと思うわ。二人ともその研究の当事者だから実情を知っていると思うわ」
「分かりました。じゃあ、後で聞いてみます」
「話題は変わるけど、由美子ちゃんは、まだ見つかってないの？」
「えぇ。残念ながら、警察も頑張って捜索してくれていますが、見つかっていません」
「私、前も言ったかと思うんだけど、どうしても三ツ橋准教授が由美子ちゃんを殺した事が信じられないの。彼には溺愛していた由美子ちゃんと同じ年頃の娘がいるわ。確かに、三ツ橋准教授は、竹上や葉山にそそのかされて特許登用という罪を犯してしまったけど、彼は人殺しが出来るような人間じゃないと思うの…」
「そうかもしれませんが、ただ、人間は追い詰められると、どれほど立派な人格者であろうとも殺人を犯す可能性はあります。しかし、三ツ橋が、殺害されてしまった今、真実を解明するには犯人を捕まえるしかありません」
星は、自分に言い聞かせるように言った。
「詳しく聞いてなかったけど、苔の洞門でどういう風に殺されていたの？」
「まだ司法解剖の結果は出ていませんが、私の推理では、首吊り自殺に見せかけた殺人です」
「したら、犯人は竹上を自殺にみせかけて殺そうとした二人組みの男かな、手口が同じね」
「手口は同じなんですが、二人組みのうち、関西弁の男の方は、三ツ橋より先に殺害されて支笏湖温泉近くの湖底で見つかりました。そして、もう一方の男も今朝、オコタンペ湖の湖畔で絞殺体で見つかりました」
「したら、三ツ橋准教授を殺したのは、葉山美絵という事？」
「葉山が関係しているのは間違いないと思いますが、首吊り自殺の偽装は、女手一人では不可能です。他に男の共犯者がいたと考えるのが自然です」
「したら、オコタンペ湖で殺された男が、三ツ橋准教授の殺害に協力して、その後、葉山美絵に殺害されたという事なの？」
「殺害現場の状況を見ると、かなり争った後がありました。また足跡から、殺害したは女ではなく男の可能性が高いです」
「竹上の証言だと、殺し屋は、三ツ橋製薬の社長の命令を受けて、葉山と三ツ橋准教授も殺害すると言っていたわ。とすれば、殺し屋が、追加で派遣されたんじゃないかしら？」
「でも殺し屋が、殺し屋を殺すというのも何か変な気がします」
「たしかにそうね…」
「それと、三ツ橋助教授の殺害現場に謎の数字が残されていました」
「何よ、その謎の数字っていうのは？」
「死の間際に、苔の壁を削り取って883と書かれているようでした。刑事は、ハヤマを暗示するダイイングメッセージだと言っていました」
「星くんはどう思っているの？」
「分かりません。ただ、ハヤマではないと思います。彼が死の間際に残したのが数字だとするとその数字自体に意味があるのだと思います」
「その数字は、由美子ちゃんに関係がある数字のような気がするわ」
「なるほど、由美子ちゃんに関係する数字か…遺棄した場所を示しているのかな。番地とか海域を示す番号かな…うむ、分からないな。芳恵さん、何かひらめきましたか？」
「若し仮に、石狩だとすれば、14…？違うわね。支笏湖だとすれば、4525。数字にはなるけど、883ではないわね。分からないわ。でも三桁の数字が表す物を考えていけば、その意味に近づけるんじゃないかな。三桁だから、電話番号ではないし、郵便番号でもない」
「若しかしたら、電話番号を書いている途中で息絶えたのかもしれないですよ」
「死に際に、電話番号や郵便番号を書いて意味があるとは思えないけど、それだったら、長ったらしい数字を書かずに、名前を書いた方が早いわよね」
「確かに芳恵さんの言うとおりですね。もっと、三桁の数字について考えて見ます。芳恵さんも何かひらめいたら、教えて下さい」
星は、芳恵に微笑みかけた。
「分かったわ。それと、もう一つ気になる事があるんだ」
「何でしょうか？」
「さっき、三ツ橋准教授は人殺しをするような人じゃないって言っていたのとは矛盾するんだけど、仮に、彼が由美子ちゃんを遺棄したのなら、石狩湾に捨てるのはおかしいと思わない？」
「それは、どういう意味ですか？」
「三ツ橋准教授の自宅は札幌にあるわ。札幌から支笏湖へ向かうのに、わざわざ、逆方向の石狩まで遺体を捨てに行くかしら？」
「確かに非効率ですね。ただ…」
「ただ、何よ？」
「犯罪者というの非効率な事をしがちなものです。特に殺人を犯した場合、犯人が直面する問題は、遺体をどうするかです。犯罪心理学の面から言うと、犯人は遺体を自分の根城からより遠く人目に付かない場所に隠そうとします。札幌に自宅があり、支笏湖(しこつこ)に別荘がある三ツ橋は、より離れた場所である石狩湾を目指したのは、それほど驚く事ではないと思います」
「そうかしら？やっぱり、私は何か不自然な感じがするわ」芳恵は意見を譲らなかった。
「今、千歳署の刑事が、やっきになって支笏湖周辺の捜索をしています。担当の安西刑事に由美子ちゃんの遺体についても捜索するようにお願いしておきます」
「ごめんね、色々と勝手な事言って」
「いえ、意見を言ってもらった方が助かります」星は軽く頭を下げた。
「こっちこそ、無理なお願いばっかりしてごめんね。したら、私は一旦、真之さんの様子を見に戻るわ」
芳恵は、そう言って、軽く溜息を吐いた。
参考地図 ： 支笏湖 － 石狩湾
「僕は、この後、鈴木さんと藤森さんに研究室の関係者について聞いてみます」
「良い情報が聞きだせると良いわね。そうだ、彼らには、真之さんが入院した理由を、過労で倒れたと説明したの。ご両親にもそう言ってあるわ。さすがに、毒を飲んで自殺を図ったとは言えないわ。だから、その事実を知っているのは、真之さんと私と星くんの三人だけなの。だから、この件に関しては、秘密にして欲しいの」
「分かりました。クライアントの秘密は決して漏らしません。墓場まで持っていきますよ。ただ、警察が何処まで捜査をしてくるかですね。西嶋教授の行為は殺人未遂に当たりますから」
「それは承知しているわ。ただ、先ずは連続殺人の犯人を突き止めるのが大事でしょ」
「その通りです」
「私からも一刻も早く殺人犯を捕まえるようにお願いするわ」
「わかりました。したら、この後、二人にいろいろと聞いてみます」
「何か分かったら私にも教えてね。それと、あの藤森って女には気を付けた方がいいわよ。意地が悪いし、腹黒い女だわ。若しかしたら、あの女が、研究結果を三ツ橋製薬に売り飛ばしたのかも知れないわ」
「探偵としては、先入観を持って話を聞くと論理的な判断が出来なくなるので僕は、あくまでも中立の立場で話を伺います」
「それは立派な探偵さんだこと…でも、星くんはどっちの見方なの？まさか、あの女の肩を持つんじゃないでしょうね？」
芳恵は、睨んだ。
「別に藤森さんの肩を持つと言っている訳じゃないんです。僕は、犯人を突き止めるために客観的に判断するだけです」
「あら私だって、客観的に推理しているわよ。あの女は、学会が始まる前日から札幌に来ているのよ。言い方を変えると、あの女が来てから殺人事件が起こったという事よ」
「まぁ、それはそうですが…より客観的に見れは、学会に参加するために札幌入りしている全ての関係者に対して、その推理は当てはまるので、藤森さん一人が怪しいという事にはならないと思います」
「何よ、客観的、客観的って。少しは私の味方してくれてもいいじゃない。丸駒温泉ではあんなに優しくしてくれたのに…」
「いやぁ、それとこれとは話が…」
「何よ、もういいわよ。早く二人に話を聞いてきなさいよ」
星は逃げるようにして部屋を出て、ロビー横にある喫煙室でタバコを吸っている鈴木の所へ行った。
「どうですか、一本？」
鈴木が、星に煙草を勧めた。
「いいえ、タバコは吸わないので結構です」
「そうですか」
鈴木は、取り出したタバコをポケットにしまった。
「それで聞きたいことというのは何ですか？」
「係争中の特許の件でお伺いしたいのですが、研究に携わっていたのは何人ぐらいなんでしょうか？」
「研究チームとして実質的に関わっていたのは、西嶋さん、私、そして伊瀬未樹という学生の３人です」
「３人か…西嶋さんは、教授とベンチャーの社長を兼務しているそうですが、鈴木さんは今、何をされているんですか？」
「博士号を取得してから、西嶋さんが社長を務める札幌ゲノメディカという製薬ベンチャー企業で働いています」
「テレビや北海道新聞で何度か名前を見聞きしたことがあります。あと、伊瀬未樹さんは何をされているんですか？」
「彼女は、今でも大学院の研究室で博士課程をやっています」
「では、研究室にいけば、伊瀬さんにお話を伺えますね？」
「聞けると思いますが…今日は学会で出払って誰もいないないと思いますよ」
「したら、夜行ってみまますか」
「夜も研究室はもぬけの殻です。今夜は研究室の卒業生も交えて打ち上げがあるんですよ」
「それはススキノでやるんですが？」
「いえ、石狩温泉の番屋旅館です。久々に札幌に来られたOBの方も多いので泊まりでやるんです」
「へぇ、石狩温泉で打ち上げというのも珍しいですね」
「そうですね。定山渓や支笏湖の温泉が定番ですが、毎回同じだとつまらないので、今回は趣向を変えたんですよ。ただ、西嶋さんが過労で倒れてしまったんで中止も考えましたが、意識も戻って回復してきたし、多くの卒業生が楽しみにしているので、予定通り開催するつもりです」
「なるほど、それでは研究室には、明日以降にお邪魔することにします。所で、ちょっとお伺いしますが、西嶋さんが倒れた時に、鈴木さんは何処にいましたか？」
「私は、持ち場が違っていたので別棟にいましたが、それが何か？」
「参考に聞いただけです」
「さて、話題は変わりますが、藤森さんという方は、学会で札幌に来ているということでしたが、今、何処で何をしているんですか？」
「東京の大手製薬会社で研究員をしています」
「東京ですか。その製薬会社は三ツ橋製薬と関わりはないんですか？」
「あんな中堅の会社とは比べ物にならないくらい巨大な会社ですよ。最近、アメリカやドイツのベンチャー企業を買収したと聞きましたが、三ツ橋製薬のような古臭いファミリー企業には興味はないと思いますよ」
「藤森さんって優秀なんですね」
「はい、すこぶる優秀な学生でした。ただ…」
「ただ…何ですか？」
「先ほどのやり取りで分かったと思いますが、向こう気が強くて、少々、口が悪いのがタマに傷ですね。しかし、男性が多い研究員の世界ではあれぐらい気が強くないと、渡り合っていけないと思います」
「藤森さんは鈴木さんとは違うテーマを研究していたんですか？」
「えぇ、彼女は速見という私と同期と一緒に、キツネの寄生虫のエキノコックスが出す化学物質の研究をしていました」
「エキノコックスというと、人間に寄生すると病気を引き起こすということで、北海道で問題になっていますね。私も野外でキツネあってもなるべく触らないように気をつけています。それで、一緒に研究していたという速見さんは今、何をしているんですか？」
「途中で退学したんで、よく分かりません。優秀な研究者でしたが、ススキのでの夜遊びに夢中になって研究室に顔を見せなくなり、その内、退学しました」
「連絡は取れないんですか？」
「研究を捨てて出ていった男となんか連絡を取りたくないですよ。時間の無駄です。ただ、西嶋さんの所には何度か連絡が来ていたようです」
「それはどういう用件だったんですか？」
「詳しくは知りませんが、就職先を斡旋していたようです。製薬関係の仕事を何回か紹介したようですが数ヶ月で辞めたそうです」
「何故、辞めたんですかね？」
「それは本人に聞かないと分からないですよ。ただ、薬の研究や開発というのは地味な作業を試行錯誤で行う仕事です。噂では、彼はススキノで風俗関係のビジネスに関わって、短期間で莫大な金を稼いだと聞きました。一度、楽して大金を手にした人間には製薬の仕事は馬鹿らしくてやってられないのかも知れませんね。ただ、景気が悪くなったせいだと思うんですが、最近もまた、西嶋さんの所に連絡があったみたいです」
「それで、西嶋教授は新しい就職先を斡旋したんですか？」
「いや、さすがの西嶋さんも、もう手に負えないと言っていましたよ。また直ぐに辞められたら、紹介した先にも迷惑が掛かるし、西嶋さんの信用もなくなりますからね。まったく、困った男ですよ。実は、特許盗用が発覚した時、私は真っ先に速見を疑ったんです。同じ研究室なのでデータを盗もうと思えば盗めるし、事件が分かったのも、彼が研究室を去ってからでしたから」
「しかし、犯人は、速見ではありません。治験をしていた竹上や葉山です」
星の言葉に、鈴木は眉根を寄せた。
「その話は西嶋さんから聞きました。確かに薬自体はそれで盗めたかもしれません。しかし、実験データなどは治験では盗めません」
「盗んだ薬を分析してデータを作ったのではないですか？」
「データを解析して、薬の製造方法など確立するには時間が掛かります。私が特許出願するよりも前に出すという事は、時間的にみて不可能です」
「つまり、竹上や葉山以外にも、実験データを横流しした人間がいるということですか？」
「その通りです。この事は、何度も西嶋さんに内部調査をするように進言したんですが、聞いてもらえませんでした」
「それは何故ですか？」
「西嶋さんは、速見を気に入っていました。研究者としては私以上に買っていましたからね。研究室の仲間を置いて去っていったにも関わらず、まだ未練があるのでしょう」
「何故、それ程優秀な方が道を誤ってしまったのですかね？」
「そこまでは私も分かりません。そんなに知りたければ、涼子ちゃんに聞いたらどうですか？あの当時、彼女は速見と付き合っていましたからね」
「藤森涼子さんは、速見さんと付き合っていたのですか…私は、先ほどの芳恵さんとの会話を聞いていて、教え子なのに西嶋教授の事を真之さんと呼んでいたので、若しかして、西嶋教授と付き合っていたのかと思ったのですが…」
「さすがに、探偵をしているだけあって鋭いですね。速見の事で涼子ちゃんが悩んでいる時に、西嶋さんがいろいろと相談を受けていたようです。研究室内でもちょっとした噂になりましたが、二人とも関係については否定していたので私には、これ以上何言えません。涼子ちゃんに直接聞いてみて下さい」
「分かりました。色々と情報ありがとうございます」
「本当は、研究室の恥をさらすような事は言いたくはないんですけどね。まぁ、特許訴訟や殺人事件の解決に少しでも、お役に立ててください」
「ありがとうございます」
星は、頭を下げた。
「所で、次に藤森さんに、お話を伺いたいんですが、ロビーには居なかったみたいですが、何処に行ったか知ってますか？」
「１階のロビーにあるコーヒーショップに行ってますよ。私も誘われたんですが、コーヒーよりも、こっちが落ち着くもんでね」
鈴木は、ポケットから銀色のジッポウライターとタバコを取り出して火をつけた。
タバコを吸う鈴木を見て、星は何となく既視感(デジャブ)を感じた。
この感覚は何だろう…と深く考えようとした矢先、鈴木が話した。
「そうだ、探偵さん。一つ質問があるんです」
「何でしょうか？」
「数日前、支笏湖で遺体が発見されたと報道されていました。ただ、支笏湖では死体は沈んで揚がらないと言われていますが、何故、死体が見つかったんですかね？」
「その件は、私も不思議に思って刑事に聞いたんですよ。支笏湖はカルデラ湖なので水際から水深が急に深くなっていますが、千歳(ちとせ)川が流れ出ている支笏湖温泉付近だけは遠浅になっていて、水深が浅いので発見されたんです」
「なるほど。研究職を長年やっていると疑問が湧くと、知りたくてしょうがなくなるんですよ。職業病ですね」
そう言って、鈴木はニッコリと笑ってからタバコを美味しそうに吸った。
星は、３階から１階に下りて藤森を探した。
藤森は、ロビーの円卓に座り、テレビを眺めながらコーヒーを飲んでいた。
「ようやく来たわね。あんまり待たせるから帰っちゃおうかと思ったわよ。私は暇じゃないのよ」
「すいません。皆さんに色々と伺っていたら予定よりもオバーしちゃいました」
「どうせ私の悪口を言ってたんでしょ」
「いえ、そんな事はありません」
「あの安浦って女、私が犯人じゃないかって言ってたんじゃない？」
「いえ…そんな…」
星は、答えに窮(きゅう)した。
「やっぱりね。あのアバズレめ。冷静に考えれば私が犯人な訳ないのに。私は支笏湖で殺された三ツ橋准教授とも面識はないし、第一、動機がないわ。それで私に聞きたい事って何？まさか、あなたも私が犯人だと疑ってるわけはないでしょうね？」
「もちろん、疑っていません。私が知りたいのは、西嶋教授の研究室の人間関係についてです。単刀直入に聞きますが、西嶋教授、鈴木さん、伊瀬未樹さんにはトラブルはありませんでしたか？」
「鈴木さんのチームにはトラブルらしき事はなかったわ。私のいた研究チームの方はトラブル続きで大変だったけどね。まぁ、強いて言えば、途中から鈴木さんと未樹ちゃんの仲がギクシャクしていたわね」
「それはどういう意味ですか？」
「未樹ちゃんは鈴木さんの事が好きだったのよ。それで、告白したらしいんだけど、断られたみたいよ」
「振られたということですか」
「そう。それで私が、鈴木さんは研究一筋の人間だからしょうがないよって慰めたら、以外にも鈴木さんは、心に決めた人がいるからという理由で断ったらしいのよ」
「それは誰か知っていますか？」
「それは分からないわ。でも、それから数ヶ月後に、一度だけ、女とデートしていたのを見かけたわ。顔ははっきり覚えていないけど、派手目な服装をしていたわ」
「鈴木さんに彼女がいたということですね」
「そう、意外だったけどね」
藤森は、嘲笑するような言い方で言った。
「意外というと？」
「あんまりこういう事は言いたくはないけど、研究室内では、鈴木さんはホモじゃないかって噂があったのよ。心に決めた人がいるって言ったのは、未樹ちゃんに諦めてもらうための口実か、若しくは、真之さんじゃないかって噂されたぐらいよ」
藤森は、そう言って鼻で笑った。
「真之さんというと西嶋教授のことでよね？」
「えぇ、そうよ」
「そうですか…ホモの噂ですか。話は変わりますが、あなたは西嶋教授と肉体関係があったんですよね？」
「鈴木さんがしゃべったの？」
「いえ、彼は二人の関係はよく分からないから藤森さん本人に聞いてくれと言っていました。私がそう思ったのは、あなたが西嶋教授を呼ぶときに真之さんと言っていたのでそう思ったんです」
「さすが探偵さん、鋭いわね。真之さんとは関係があったわ。学生の頃、研究室で先輩と付き合っていたんだけど、その先輩が途中からススキノの夜の世界にはまってしまったの」
「それは速見さんのことですね？」
「えぇ、そうよ。それで、真之さんにいろいろと相談しているうちに関係を持ったの。勘違いしないで欲しいんだけど、セクハラとはパワハラの類じゃないわ。正直に言うと、私の方から彼に抱いて欲しいで言ったの。あの頃は、速見の事で気が滅入っていて誰かに支えてもらわないと心も体も壊れそうだったのよ」
「今でも西嶋教授と関係があるんですか？」
「ないわ。私が卒業して札幌を離れてから、お互い疎遠になったわ。そして、あの安浦という女と真之さんが付き合うようになって完全に終わったわ。実は、学会が始まる前夜に、真之さんと一緒に飲んだのよ。でも、もう抱いてくれなかったわ。彼が私を抱いてくれたのは、舞い込んできた野良猫を少しの間だけ世話してくれたようなものだったのかも知れない。でもそれが悔しくて、あの女の前では、わざと真之さんって呼んでるのよ。意地悪な女でしょ私って」
「その気持ちは、分からないでもないです…」
「では、次に速見さんについて教えてください」
「彼については余り話したくないけど…」
「答えられる範囲でいいんです」
「分かったわ」
「速見さんが今、何処にいるかご存知ですか？連絡先とか知っていますか？」
「知らないわ。別れてからあの人とは一切連絡を取ってないわ」藤森は不機嫌に言った。
「では、速見さんがススキノの夜遊びにはまってしまった切っ掛けを知っていますか？」
「キャバクラのボーイのバイトよ。彼、大学時代まで空手をやっていたから、そのうち、腕っ節を買われてボディーガードのような仕事もやるようになったの」
「へぇ、それはすごいですね」
「どこがすごいのよ。ちょっと高級なキャバクラのボディーガードを兼ねたボーイよ。所詮、水商売よ」
藤森は、口を尖がらせた。
「それからどうしたんですか？」
「羽振りが急に良くなって、研究室に来なくなっちゃたの。多分、やばい仕事を引き受けたんだと思うわ」
「やばいというと暴力団がらみとい事ですか？」
「えぇ、そうよ。詳しく教えてくれなかったけど、麻薬の密売にも関わっていたみたい。だんだん人格も変わったわ。それで、怖くなって別れたの」
「彼が研究室を去った裏には麻薬が絡んでいたんですか…ということは、やはり速見さんが実験データを持ち出した可能性が高いですね」
「確かに麻薬に手を出したかもしれない。でも、別れた恋人の私が、こう言うのも変だけど、速見さんはそんな事をするような人じゃないと思うわ。他人のデータを盗んで売るような人じゃないと思うわ」
「麻薬は人間性をも破壊します。時には麻薬欲しさに殺人まで犯すんです。データを盗むくらいするでしょう」
「どうせ、速見さんが怪しいというのは鈴木さんに吹き込まれたんでしょ？」
「確かに、鈴木さんも速見さんが怪しいといっていましたが。私も同意見です」
「鈴木さんにとっては、速見さんが研究室を去って、ありがたかったでしょうね」
「それはどういう意味ですか？」
「二人は同期で、研究室のライバルだったわ。二人とも優秀だったけど、鈴木さんは秀才タイプで、速見さんは天才タイプだったわ。それと、速見さんは空手をやっていたけど、鈴木さんは合気道をやっていたわ。何だか２人の性格が現れているようで面白いでしょう。あの二人は、似て非なる存在なのよ。速見さんは、独創的なアイデアを出して、ユニークな研究をしていたから、教授受けが良かったし、私も研究者としては、速見さんのようなタイプが大成するような気がするわ。つまり、鈴木さんにとって速見さんは天敵だったのよ。鈴木さんは、自分の出世を邪魔する存在が居なくなって大喜びだったと思うわ。つまり、速見さんをデータ泥棒にしておけば、彼には全てが丸く収まるのよ」
藤森は、コーヒーを口にした。
その時、ちょうどロビーにあるテレビで支笏湖殺人事件のニュースが流れた。
「あれ、この人が、容疑者？何処かで見たような気がするわ。いつだったなかなぁ…」
「容疑者は、葉山美絵という医薬品販売業をしている女性です。あなたの研究室にも出入りしていたらしいですよ」
「そうなの？したら、その時に見たのかなぁ…うーん、思い出せないな。まぁ、いいか。私の知ったことじゃないわ。私も暇じゃないのよ。そろそろ、行かなきゃいけないのよ」
「すいません、お忙しい所。最後に一つ聞きたいことがあるんですが」
「何よ、まだあるの？手短にしてね」
「大学院でエキノコックスの研究をしていたそうですが、具体的にどのような研究をしていたのですか？」
「あら、研究についてなら幾らでも話すことはあるわよ」
藤森は、嬉しそうに行った。
「研究テーマを選んだのは、速見さんだとお聞きしましたが、それで間違いないですか？」
「そうよ。エキノコックスの出す毒素に注目して、獣医学部と共同研究をしたのよ。私生活では色々と苦労されられたけど、まともだった頃の彼は研究者として尊敬しているわ」
「研究対象は毒素ですか…」
「何よ、あなた。若しかして私が、その毒素を使って殺人をしたと疑ってるの？」
「いや、そういう訳ではないんです。純粋にどういう研究をされていたのかなぁと思って質問したんですよ。詳しく聞かせてください」
「普通の人は、寄生虫というだけで毛嫌いすると思うけど、実は寄生虫は、場合によっては寄生する宿主にとって有用な存在になるのよ」
「そうなんですか？でもエキノコックスは人間に寄生すると肝機能がやられて、数年後は死亡するんですよね？」
「そうよ。でも、エキノコックスにとって人間は本来の宿主ではないの。本来の宿主はキツネや犬などの動物なの。キツネの体内にいる成虫が卵を産むと、卵はキツネの糞と一緒に野山に拡散するの。そして、卵の入った糞に汚染された餌をネズミやウサギが食べると、エキノコックスはその体内で幼虫になって肝臓で養分を吸収して成長するの。するとネズミやウサギはどうなると思う？」
「人間と同じように病気になるとおもいますけど、違いますかね？」
「その通りよ。肝機能が低下して病気になって運動能力が低下するわ。するとキツネはその動物を捕食しやすくなる。そして、エキノコックスの幼虫は、キツネの体内で成虫になり、また卵を産んで、キツネはそれをばら撒く」
「つまりエキノコックスとキツネは、Give&Takeの関係にあるということですね」
「そうよ。人間の寄生虫の代表としてはサナダムシが知られていると思うけど、最近の学説では人間の抵抗力を上げると言われているわ。戦後、日本人にアレルギーが急に増えた原因の一つが、寄生虫を駆除したせいだとも言われているのよ」
「へぇそうなんですか、勉強になりました」
星は、大袈裟に頷いた。
「所で、藤森さんは今、製薬会社に勤務していると聞きましたが、どういう薬の開発をしているんですか？」
「大学でのエキノコックスの遺伝子研究を活かして、遺伝子組み換え技術から、色々な蛋白質抗体を開発する仕事をしていわ」
「何だか難しいそうな開発ですね…ちなみに、それは三ツ橋製薬と何か関係していますか？例えば、共同研究しているとか、ライバル関係にあるとか？」
「全く関係ないわ…やっぱり、あなた私を疑っているわね。さり気なく三ツ橋製薬との関係を聞いてくるなんて」
藤森は、きつい目付きで星を睨んだ。
「もういいわ。私、これから共同研究している北大獣医学部の教授と打ち合わせがあるから、これで失礼するわ」
「色々と話を聞かせてもらってありがとうございました」
「したらね」
藤森が、シャネルの鞄を肩に掛けて立ち上がった。
ちょうど、テレビで支笏湖の連続殺人のニュースが入り、指名手配の葉山美絵の写真が流れた。
「若しかして…」
藤森が、呟いた。
「何か気付きました？」
「いや、大したことじゃないのよ。急がないと待ち合わせの時間に後れちゃうわ」
藤森は、病院のロビーを小走りで掛けて出て行った。
星が３階に戻ると、鈴木の姿はなく、ロビーのソファーでは、芳恵が座ったまま居眠りをしていた。
隣に座ると、芳恵が目を覚ました。
「かなり疲れているみたいだね」
「数時間しか寝てないから、ちょっと休憩と思ったら寝ちゃってたわ。それで、二人からは、足しになる話は聞けた」
「えぇ、研究室内での人間関係について、色々と聞けましたよ。所で、芳恵さんは、速見さんという方をご存知ですか？」
「えぇ。前に、真之さんが、惜しい人材を失ったと話していたわ」
「西嶋教授は、一度、研究室を辞めた速見さんに就職先を斡旋していたようですが、何故、もう一度研究室に復帰させなかったんでしょう？」
「何でも他の研究者に反対されたそうよ」
「それは鈴木さんですか？」
「彼だけじゃなくて、研究室の殆どの人間が反対したらしいわ。研究者としては優秀だったらしいけど、人間関係でも揉め事が多かったらしいわ。やっぱり研究を投げ出して勝手に出て行くような人は、信頼できないわ。もし、私もその場にいたら反対したと思うわ」
「確かにその通りですね」
「それで、あの女はどうだった？やっぱり怪しかったでしょう？」
「おそらく藤森さんは、シロでしょう。訴訟中の研究や三ツ橋製薬とは無関係のようです」
「殺人事件と無関係でも、真之さんとは無関係じゃないでしょう？」
芳恵は、目蓋を引きつらせた。
「さぁ、それは分かりませんが…」
星は、触らぬ神に祟りなしと思い言葉を濁した。
「普通は恩師を真之さんって下の名前で呼ばないわ。それに、突っかかってくるし」
芳恵は、探るような視線で星を見た。
「そう言われても、僕には何とも…」
星は、頭を掻いて惚けた。
「そうね。星くんに文句を言っても始まらないわね。ごめんね」
「いいんですよ。話して楽になることもあると思うんで何かあったら言って下さい。したら、僕は帰ります。西嶋教授が話せるくらいに回復したら、又、連絡下さい」
「うん、分かったわ」
第５５章 終了
→ 第５６章 ： 神成の推理 へ
→ このページトップ へ戻る
|
|
