関連リンク：
1/24インチアップ
ディスクシリーズ21 DC2
インテグラ タイプR '95
支笏湖 （Lively Colors）
形式: MP3 ダウンロード
自然ガイド 支笏・樽前
[単行本]
北海道の湖21
[大型本]
永井大
2006年度 カレンダー
SEE YOU THERE
金子ノブアキ 写真集
単行本（ソフトカバー）
明智小五郎読本
[単行本]
支笏の秘水
王子サーモン
Rhythm & Drums magazine
2010年 07月号
(CD付き)[雑誌]
金子ノブアキ
RUDO (ルード)
2010年 06月号
[雑誌]
 北海道の健康果実！
ハスカップの実
500g
ドラキュラの葡萄
ハスカップ果汁液
|
第５４章 オコタンペ湖の殺人
次の日の朝、星が朝御飯に卵掛けご飯を食べようとした時、携帯が鳴った。
「もしもし星さんですか？千歳署の安西です」
「おはようございます、安西さん。若しかして、由美子ちゃんの遺体が見つかりましたか？」
「いえ、残念ながら、石狩湾岸署から発見されたという連絡は入っていません。実は今朝、オコタンペ湖で身元不明の男性の遺体が見つかりました」
「オコタンペ湖？聞き慣れない名前ですね？それは何処にあるんですか？」
「支笏湖の北西にある小さな湖で、恵庭岳(えにわだけ)を挟んで反対側にあります」
「支笏湖の近くにそんな湖があったなんて知らなかったなぁ」
「一般人は立ち入りが禁じられているんで知らないのも無理ないですよ。でも、阿寒(あかん)のオンネトー、十勝の東雲湖(しののめこ)と、共に、北海道３大秘湖の一つに数えられている湖です。それでですね、オコタンペ湖で見つかった身元不明の遺体が、今回の連続殺人事件に関係している気がするんですよ。それで、遺体の確認して欲しいんです」
「分かりました。朝飯を急いで食べてから直ぐに出向きますよ」
「オコタンペ湖畔には車の乗り入れできないので、展望台の駐車場まで来て下さい。そこでお待ちしています」
「分かりました。すっ飛ばして向いますよ」
「星さん、スピード違反には気を付けて下さいよ。今日は、国道453号線で取り締まりをしているはずです。確か真駒内ゴルフ場周辺で、交通課が張ってますよ」
「ありがとうございます。でも、警察の情報を漏らして良いんですか？」
「良いんですよ。スピード違反者を捕まえる事よりも、連続殺人犯を捕まえる方が大事なんです。ではお待ちしています」
と言って、安西刑事は電話を切った。
参考地図 ： オコタンペ湖
星は札幌から車を飛ばして、支笏湖に向った。
峠を越えて、恵庭岳(えにわだけ)を正面に見た三叉路で右に曲がりオコタンペ湖へ向った 。
道路沿いにあるオコタンペ展望台に車を停めた。
展望台には、数人の観光客が、オコタンペ湖を背景に記念撮影をしていた。
鮮やかなコバルトブルーの湖面に細波が立ち、日光にきらめいていた。
この世は美しい。
しかし、美しいこの世界で、人は次々と死んでゆく。
天国と地獄が共存する世界、それがこの世だ。
哀しいが、それが宇宙の摂理だ。
オコタンペ湖周辺は、幕末の探検家、松浦武四郎(たけしろう)が「仙境とも云うべき処(ところ)」と言った場所だ。
21世紀となった今でも原生の気が、漂っている。
余談になるが、「ほっかいどう」と名付けたのが、この松浦武四郎だ。
元々は「北加伊道(ほっかいどう)」という漢字だったが、後に「北海道」に改定された。
何故、「加伊(かい)」なのかと言うと、アイヌ民族は、自国を「カイ」と呼んでいた。
松浦は、アイヌ民族の国という意味で「カイ」という言葉を使い、「北加伊道(ほっかいどう)」と名付けた。
深い青色のオコタンペ湖を見ていると、一台のパトカーが駐車場に入ってきた。
安西刑事だった。
「何度も、足を運んでもらって、ありがとうございます。では、早速、現場にご案内するんで、パトカーに乗って下さい」
パトカーは、オコタンペ川に架かる橋の袂(たもと)で停車した。
「自然保護のためオコタンペ湖畔は立ち入り禁止なので、道は整備されていません。ここからは川沿いの山道を歩いていきます。獣道(けものみち)に慣れている星さんなら大丈夫だと思いますが」
安西は、微笑んだ。
「任せてください。迷子犬や猫の捜索で足腰には自信がありますから」
星も、笑って答えた。
星は、安西刑事の後を付いて、草や笹の薮を漕いでオコタンペ湖へと向った。
いつヒグマが出てきてもおかしくない山奥の仙境だった。
薮を掻き分けながら歩く事、２０分ほどでオコタンペ湖に着いた。
コバルトブルーの湖水は、不気味なほどに美しかった。
湖畔の大木の傍らに、男の遺体が横たわっていた。
鑑識が写真を取ったり、足跡を調べたりしていた。
星は、遺体に合掌してから尋ねた。
「死因は何ですか？」
「首に紐のような物で絞殺した跡があったので死因は窒息死でしょう。ただ、体にはたくさんの傷跡が見られました。それに服や顔には湖畔の泥が付着していたし、現場の地面が踏み荒らされてます。ここで被害者と犯人との激しい争いがあったと思います。それでは、星さん。ホトケの顔を確認して下さい」
星は、遺体の顔を覗き込んだ。
首に大きな痣黒子があった。
「顔にに見覚えがあります。それと、この首にある黒子も一緒です。竹上を殺害しようとした２人組の若い方で間違いないです。ちょっと、失礼して写真を撮らせてもらいます」
星は、携帯のカメラで撮影してから質問した。
「死亡推定時刻は何時ですか？」
「死後６～１２時間ぐらいですかねぇ。つまりは、昨夜の８時から未明２時ぐらいの犯行だと思います」
「という事は、関西弁の男とは、異なる日に殺されたということですね」
「そうです。関西弁の男が殺害されたのは、一昨日の夜ですから、その一日後に殺害されということになります」
「解せないなぁ…」
星は、首を傾げた。
「何か気になることでも？」
「不自然に感じる点が２点あります。１点目は、関西弁の男が殺害された時、このホトケが逃げたにも関わらず、何故、次の日に殺害されたのかという点です。
もう１点は、何故、こんな人跡未踏のような場所で、しかも、犯人とホトケはかなり争った形跡があります。何故、２人はこんな秘境で、どうして争わなければいけなかったのか？」
「そうですね。ホトケは、とっとと関西に帰れば殺されずに済んだかも知れませんね」
「関西弁かぁ…、そう言えば最初に殺された男は関西弁だったけど…このホトケは関西弁じゃなかったな…」
星は、腕組みして考えた。
「警察の方では、京都を中心に関西の暴力団員の身元照会を進めていますが、まだ分かっていません。人数が厖大ですし、準構成員やその取り巻きまで把握するのは至難の技です」
「そうですね。所で、葉山美絵の行方は掴めましたか？」
「鉄道や空港などの交通機関にも手配書を配って、協力を要請していますが、まだ逮捕に至っていません」
「彼女はもう北海道から脱出したかもしれませんね。下手をしたら日本にも居ないかもしれない」
「私は、違うと思います」
安西刑事が、自信ありげ反論した。
「それは何故ですか?」
「第一の殺人から第三の殺人まで、全て支笏湖周辺で発生しています。将に、支笏湖連続殺人事件です。つまり、第三の殺人が昨晩行われたならば、その犯人は、まだ湖周辺に潜伏していはずです。
三ツ橋の残した暗号や、状況証拠から推理すると、犯人は葉山美絵に間違いありません。そして、ここからが私の推理の核心ですが、数日の内に、第４の殺人が支笏湖周辺で発生するでしょう。若しかしたら、第４の殺人事件が既に起こっているかもしれない」
安西刑事は、鼻穴を広げて自信満々な表情をした。
「つまり、安西さんは、支笏湖で起きた三つの殺人事件は同一犯だと？」
「もちろん同一犯です。支笏湖周辺で３回連続で殺人事件が発生しているんです。しかも、運良く遺体が発見されていますが、湖の底、苔の洞門、そして、オコタンペ湖に遺棄しています。これは明らかに、死体発見を遅らせるためです。そこの看板にも書かれていますが、オコタンペ湖は、湿原の生態系保護のため立ち入りが禁止されています。犯人はそれを狙って犯行に及んだのでしょう。しかし、苔の洞門の時もそうでしたが、世の中にはルールを守らない人間が居るものです。実は今回も、地元の釣り人が、朝早く、オコタンペ湖へやってきた所、遺体を発見したんです」
「殺人という重いルール違反をした犯人が、他の人は、立ち入り禁止のルールを守ると期待するというのは都合の良い考えですね」
星は、皮肉を言った。
「全く同感です。刑事をしていて感じる事ですが、犯罪者というのは得てして、エゴが強いんですよ。しかし、不思議な事に、犯罪者は、 自分は悪人だと自覚している一方で、世の中の大半の人間は善人だと思っている傾向があります。今回の三つの連続殺人の犯人も、そういう身勝手な考えの持ち主という事です」
「確かに連続殺人事件は、全て支笏湖周辺で起きていますが、今回の事件はやり口が違うように感じます」
「ほう、例えばどんな点ですか？」
「現場の荒らされ方ですね。第１、第２の殺人事件では、犯人は狡猾に殺害した印象があります。つまり、安西さんが言ったように、死体を見つかり難い場所に遺棄し、さらに自殺に偽装しています。
第１の殺人事件でも、私が竹上を救出していなければ、関西弁の男の遺体は、身元が判明するまでは、竹上の遺体として扱われたでしょうし、第2の殺人事件では明らかに首吊り自殺を偽装していました。
しかし、今回の殺人事件の現場を見る限り、そのような狡猾な手口は感じられません。確かに、安西さんがおっしゃるように、オコタンペ湖という立ち入り禁止の場所で殺人をしている点は、遺体を隠すという意図があったのかもしれませんが、行き当たりばったりという感じがします。ちなみに、現場には全部で何人の足跡が見つかりましたか？」
「鑑識が調べた所、４人の足跡が見つかっています。この内、一つは第一発見者の釣り人の物。二つ目がホトケの物。残る二つは、大きさから言って、大人の男と女の足跡と推測しています。おそらく、女の足跡が葉山の物で、もう一つが共犯者の物でしょう」
「犯人は、２人ですか」
「私の推理だと、その共犯者も葉山によって既に支笏湖周辺で殺害されている可能性があります」
安西は、自信満々に言った。
「安西さんには失礼ですが、その線は薄いと思いますよ」
「ほう、そこまで言うのであれば、どちらの推理が当たるか勝負しましょう」
「私は駆け出しの私立探偵です。推理で刑事さんと勝負するだなんておこがましいですよ」
星は、手を振って断った。
「ほう、では私の推理が正しくて、あなたの推理は間違っていたと認めるんですね？」
「それとこれとは話が別です。勝負はお受けできませんが、私の推理の方が合っていると思います」
星は、反抗的な口調で言った。
「だったら、勝負しましょうや」
「分かりました。受けて立ちましょう」
「そうこなくっちゃ。したら、私の大好物のソフトクリームを賭けましょう」
「えっ、賭けるんですか？」
「勝負するには何かを賭けなきゃ面白くないっしょや。でも、この事は上官の藤野刑事には内緒にしてくださいよ。あのオヤジは、堅物なんですよ」
安西は、悪戯っ子のような笑みを見せた。
「千歳に、『茶花』っていう美味しいソフトクリーム屋があるんですよ。今回は、ハスカップのソフトを賭けて勝負しましょう」
「ハスカップっていうと、酸っぱい果物ですよね。確かドラキュラの血とか言う名前のジュースがありましたよね？」
星は、少し茶化して言った。
「違いますよ。ドラキュラの血じゃなくてドラキュラの葡萄です。さては、星さん。あなた、ハスカップを馬鹿にしていますね？ハスカップは千歳周辺に原生するフルーツで、アイヌの人々は不老長寿の食べ物として珍重してきたんです。それほど体に良いフルーツなんです」
「ほう…それは良く分かりましたよ」
「そうですか、ハスカップについて分かってもらえて嬉しいですよ」
「よく分かったのは、ハスカップじゃなくて、安西さんが地元をこよなく愛する刑事だってことですよ」
星の言葉に、安西は白い歯を見せて笑った。
第５４章 終了
→ 第５５章 ： 嫉妬深き乙女 へ
→ このページトップ へ戻る
|
|
