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第４８章 証言
次の日の朝、星と芳恵は、竹上の入院している病院に向かった。
病室に入ると竹上はまだ寝ていたが、１時間ぐらいで目を覚ました。
キョロキョロと辺りを見回して、ようやく自分が置かれている状況を認識したようだった。
星は、ベッドの横に歩み寄った。
「あれっ、俺は確か…」
「そう、君は危うく殺される所だった」
「あんたが助けてくれたのか？」
星は、頷いた。
「どうして、何の面識もない俺を…」
「人が殺されそうになっているのを、黙って見過ごす訳には行かないだろう」
「ありがとう…何だか生きているのが信じられないよ」
「命は平等に大事だ。だが、罪を犯した君は、罰を受けなければならない」
「罰？」
「君は、由美子ちゃんをひき逃げし、救助せずに隠したんだろう」
「全てお見通しと言うわけか…」
竹上は、諦め顔で苦笑した。
「犯人は君だな？」
「あぁ、事故ったのは俺だよ」
「何故、直ぐに救急車を呼ばなかった？」
「助からないと思ったんだ。それに、その時、薬もやっていたし。車にも薬が置いてあったから、ばれるのが恐くて逃げたんだ」
「それで、車で運んでから殺したのか？」
「まだ生きていた状態で三ツ橋に引き渡した。殺したのはやつだよ。首を絞めて、石狩湾に捨てたと言っていたよ」
「それで石狩湾の何処に捨てたんだ？海中か、それとも砂浜に埋めたのか?」
「詳しい話は知らねぇよ。俺は三ツ橋から聞いただけだ。本当だ、信じてくれ」
星の脳裏に、幸明の顔が浮かんだ。心の中で。「ごめん、幸明くん、お姉ちゃんは救えなかったよ」と謝った。
「ひき逃げの件は、分かった。それで、君が使っていた薬物は、先端医薬研究所から盗んだものだろう」
「そ、そこまで知っていたのか…」
「君たちの事は調べさせてもらった。君が、幾つもの病院や大学の投薬バイトで手に入れた新薬を三ツ橋に売り渡していた。そうだろう？」
「そうさ売ったよ。あんたの言う通りだ」
竹上は、観念して罪を認めた。
「実験データを盗んだのも君か？」
「それを盗んだのは、美絵さ」
「どうやって手に入れたんだ？」
「さぁね。それは俺も知らない。聞いても教えてくれなかったよ。おそらく得意の色仕掛けでもして盗み出したんだろう」
「それは内通者(ないつうしゃ)がいたという意味か？」
「そこまでは俺はわからねぇよ」
星は、腕組みをして考えた。
美絵はどうやって、実験データを手に入れたのだろうか？
「最後に一つ質問がある。君を殺そうとした男たちは、何者だ？」
「三ツ橋製薬の社長の差し金だ。リーダー格の方は関西訛りがあったから、本社のある京都の組から派遣さたんだろう。三ツ橋もおめでたい野郎だ。あの男たちは、俺だけじゃなく、三ツ橋と美絵も殺すつもりだ。若しかしたら、既に、二人とも殺されたかも知れねぇな」
「全員を殺そうとしたのは、三ツ橋製薬が新薬から精製した麻薬を製造しているからだろう。そして、闇ルートを使って、合法ドラッグとしてさばいている。そうだろう？」
竹上は、化物を見るような目付きをした。
「若しかして、あんた、麻薬捜査官か？」
「質問しているのは私だ。先ずは私の質問に答えろ」
星は、厳しい目付きで睨んだ。
「そこまで捜査が進んでるいんじゃ、三ツ橋製薬も、もう終わりだな。ざまぁねぇぜ。その通りさ、あんたの言う通りだよ」
「神成さんが言っていた通りか…」
星は、呟いた。
「刑事さん、俺はどうなってしまうんだ？」
「数年は刑務所暮らしだろうな。ちなみに、私は刑事ではなく、探偵だ。本物の刑事は、もう少ししたら到着するよ」
数分後、刑事が病室に入ってきた。
「千歳署の安西です。札幌で発生したひき逃げ事件の犯人が、この病室にいると聞いて来たんですが？」
「通報したのは私です。ひき逃げ犯は、彼です。名前は竹上昇です」
星は、ベッドに横たわる竹上を示した。
「竹上昇？それは妙ですね。実は今朝、通報がありまして、支笏湖畔に、自殺を仄めかす遺書が入った車が停車していたそうです。遺書には、ひき逃げをした罪の意識から自殺をすると書いて、竹上昇が差出人でした。
車も、ナンバーを照会した所、その竹上の車でした。さらに、トランクを調べると、被害者の物と思われる血痕が見つかりました。目下、潜水隊が、支笏湖を捜索中です」
「それは、自殺に見せかけた殺人です」
星は、面と向って言った。
「はっ？何ですって、殺人？」
「そうです。昨晩、殺されそうになった彼を私が助けました。殺人偽装に付いての話は、殺されそうになった彼から直接聞いた方が分かるでしょう」
星は、竹上を見た。
「あなたは竹上の知り合いですか？」
安西刑事が、質問した。
「いえ、僕は、しがない探偵です。こういう者です」
星は、刑事に名刺を渡した。
「神成探偵社…もしかして、神成孝二郎さんの探偵社ですか？」
「えぇ、そうです。良くご存知ですね？」
「神成孝二郎さんは、俺らの憧れだった人です。北海道警察きっての凄腕の捜査官で、幾多の難事件を解決した名警部でした。数年前に辞めて、探偵をしていると風の噂で聞きました」
「へぇ、神成さんて結構、有名なんですね」
星は、事務所で鼻クソをほじくっている神成の顔を思い浮かべて、少し尊敬の念を抱いた。
「道警の刑事で知らない人はいないくらい有名ですよ。道理で、あなたはどこか普通の市民と違うなって感じがしましたよ。しかし、後は私たちにお任せ下さい。この男は、署で取り調べをしますから」
「後は、よろしくお願いします。それと、一つだけお願いがあるのですが」
「何でしょう？」
「彼の供述によれば、ひき逃げした由美子ちゃんを石狩湾に捨てたそうです。なので、遺体の捜索をお願いしたいんです」
「分かりました、署長に相談して、直ぐにでも石狩署に捜索してもらいましょう」
「ありがとうございます。では、後はよろしくお願いします。あっ、そうだ。最後に、竹上さん」
「何だい、探偵さん」
「双頭のドラゴンが描かれたジッポウがボートに落ちていたんで拾っておいたよ。あなたのでしょう？」
星は、棚の上を指差した。
「これは、美絵から香港土産でプレゼントされたもので、お気に入りジッポウなんだ。恩にきるぜ」
竹上は、ジッポウを手にして微笑んだ。
第４８章 終了
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