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第４７章 秘密の一夜
星と芳恵は丸駒温泉に泊まった。
遅い夕飯は、ヒメマスと山菜の料理だった。
二人とも、腹ペコだったので、残さず食べた。
星は、食後、温泉に入った。疲れた体を湯に浸けながら、今日の出来事を振り返ってみた。
「それにしても今日は、色んな事があった。あまりに慌しくて探偵探偵社に連絡を入れるのを忘れていた。みんな帰宅して事務所には誰もいないだろう。明日にでも連絡すればいい」
星は、風呂の中で大きな欠伸をした。
芳恵は、星が風呂に行った後に真之に電話した。
真之はなかなか出なかった。
明日の学会の準備で忙しいのかもしれない。
切ろうと思った時、電話に出た。
「もしもし、わたし。真之さん。明日の学会の準備は忙しいの？」
「あともう少しで終わりそうだが、まだ研究室だ。地元での開催だから準備が大変なんだ」
「お疲れ様。所で特許訴訟の件で新しい事が分かったの。竹上は、多くの病院を治験で渡り歩いていたの」
「しかし、治験はそこらじゅうの病院や大学でやってる事だろう。別に珍しくもないよ」
「竹上はマジックが得意で、薬を飲み込んだ振りをして取っておいたらしいのよ」
「検査官の目を潜り抜けてそんな芸当が出来るのか？」
「一緒に治験をした人が話していたから間違いないわ。それに、葉山美絵もグルになって、学生たちの治験を取り仕切っていたらしいの」
「と言う事は、三ツ橋も治験を利用した犯罪に関わっていたということか？」
「そういうことよ」
「新薬を盗んで構造解析すれば、その物質の成分や構造は分かる。薬効の試験もできる。したけど、その新薬の製造方法は、分からないはずだ。だが、三ツ橋の特許には、分子構造や製造方法のクレイムも入っていた」
「そうね、そこが謎ね。だけど、取り敢えず、一歩前進よ」
「そうだな。何とかそこを突破口にして、やつらの悪事を暴いてやる。所で、お前は今、家にいるのか？」
「えぇ、そうよ」芳恵は嘘を付いた。
「そうか…テレビの音もしないから、周りがやけに静かだなと思ったんだ」
「私だって、テレビも付けずに静かにしてる事だってあるさ」
その時、誰かが部屋の扉をノックして、小声で失礼しますと言った。
「仕事中ごめんなさいね。したら、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
芳恵は焦って電話を切った。
「失礼します。お布団を引きに参りました」
女中さんがドアを開けて、一礼した。
間一髪だった。
芳恵は胸を撫で下ろした。
「私、温泉に入ってくるんで、お願いします」
芳恵は、女中さんと入れ替わるように部屋を出て、温泉に向かった。
芳恵は温泉に浸かってから、石鹸で泡立てて体を入念に洗った。
真之を愛しているはずの自分は、何故、病院であんな事を言ってしまったのだろう？
星の疲労具合からすると、札幌に車で帰るのは危険だった。
しかし、必ずしも温泉旅館に泊まらくても良かった。
千歳市の中心街のビジネスホテルに泊まることだってできた。
しかし、芳恵は温泉旅館に誘った。
若しかしたら紳士的な星が、急に狼になるかも…と期待する気持ちがあった。
「真之が悪いんだわ。最近は、学会や研究に感(かま)けてばかりで、私の相手をしてくれないからよ。それに会えば特許盗用の調査の話ばかり。そうよ、真之が悪いのよ」
芳恵は、星と一緒に泊まることになったのを真之のせいにした。
芳恵は風呂から上がって脱衣所で体を拭いた。
着替える際に、ふと気が付いた。
今夜、泊まるなど思っていなかったので、下着の着替えがなかった。
「脱がされる時に星に気付かれたらどうしよ…」
と思わず頬を赤らめた。
「あら嫌だ。私ったら、何を考えているんだろう」
と胸がドキドキ高鳴った。
部屋に戻ると、星のスリッパが脱いであった。
「とってもいい湯だったわ。男湯はどうだった？」
芳恵は、話掛けながら障子を開けると、星は布団の上に大の字になって寝ていた。
「何よ。期待させておいて…先に寝ちゃうなんて」
と、星の寝顔を睨みつけた。
芳恵は、星の傍らに座り、彼のほっぺに人指し指をギューッと押し付けた。
「おい、何、幸せそうな顔して寝てるんだよ。起きろ、馬鹿。淫らな想像をしていた私が馬鹿みたいじゃないか」
芳恵は星のおでこに、バカっと指でなぞり書きをしてから、そっと、彼の額にキスをした。
芳恵は、スヤスヤと寝息を立てる星の顔を見て思った。
星は、まだ２０代前半で血気盛んだ。
夜、目が覚めて隣に美女がいれば、間違いが起きないとも限らない…
「星くんは、避妊具を持ってるのかしら。なければ、私の鞄の中に入っているわ。でも、女から出すのは恥ずかしいな。でも、夜中に急に迫られたらそんな事を言ってる余裕はないし…こっそり出して枕の下にでも隠しておけばいいかしら。いっその事、私から襲っちゃおうかしら…」
芳恵は、そんな妄想をしつつ部屋の電気を消し、星の布団にもぐりこんだ。
第４７章 終了
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