朝比奈颯季　ネット小説　神成探偵社の事件簿1～支笏湖に消ゆ～　第４５章：誤算

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神成探偵社の
事件簿１
-支笏湖に消ゆ-

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　第４５章　誤算

　芳恵は別荘の全ての窓から中を探って、由美子を探したが、いる気配は全くなかった。
　入口が開きっぱなしのガレージに行って調べてみたが、人の気配や何かを隠している様子はなかった。
　となると残るは二階の部屋か…と芳恵は二階の窓を見上げた。
　一人で別荘に進入して、二階を調べて見るべきだろうか。
　しかし、別荘の中に入ると、星の合図を見逃してしまう危険がある。
　芳恵は突入するのはやめて、木陰に隠れて湖の方へ注意を向けた。

　湖畔の森は寂然としていた。
　静寂を破るように、時々、「ホホッホ、ホーホ」と、少しくぐもった感じのフクロウの鳴き声が聞こえてきた。
　しばらくして、湖畔の方でレジャー用の打ち上げ花火が夜空に輝いた。

　芳恵は急いでガレージの裏手に回り、発炎筒に次々と着火した。
　それから、別荘の裏に隠れて、三ツ橋たちが出てくるのを待った。
　火に気付いた三ツ橋たちが、慌てふためいて玄関から出て、ガレージに向かった。
　芳恵は、その隙に玄関から中へ入り、階段を駆け上がりった。
　部屋の電気を付けて、探し回ったが、どこにも由美子はいなかった。
　残された時間は少ない。
　窓から外を覗くと、二人の男もガレージに駆け付けてきた。
　芳恵は、二階の電気を消して階段を駆け降りて外に出た。

　ガレージで慌てふためく声を背に、身を屈(かが)めて車まで疾走した。
　エンジンを付けると、ドスの聞いた低いエンジン音が唸った。
　いざ出発と言う所で、強烈な違和感を覚えた。
「何これ、ギアにスイッチがないじゃない。それに、この左足のペダルは何？この車はマニュアルだ…」
　芳恵は呆然とした。
　マニュアルを運転するのは、教習所以来だ。
　ずっとオートマだったので、マニュアルの運転の仕方は、さっぱり忘れていた。
「どうしよう。下手したら、あの極道たちが、追っかけてくるかもしれないのに…あぁ、どうしよう」芳恵は頭を抱えた。
「腹括って運転するしかないわ。免許は持っているんだ。マニュアルでもオートマでも、同じガソリンで走る車じゃない。ちょっとぐらいぶつかっても、星くんには許してもらおうっと」と開き直った。
　まずは半クラッチでスタートした。
　車が動いたと思った瞬間、ドンと縦揺れが起きて、エンストした。
「あー、どうしよう。やっぱり無理だ。もう、泣きそう」
　そういえば、教習所でも何回もエンストしていた気がする。
　でも３回ぐらいで何とかなったはず。
　今回も、３回やったら１回は成功するだろうと開き直って、半クラッチでの発進を試みた。

　何とか４回目で車は動き出した。
　それから、ゆっくりとセカンドに切り替えて自転車並みの速度で進んだ。
　そのまま、トロトロ、車を走らせて、星の指示通り、丸駒温泉に向かった。
　山道で信号がなかったので、エンストすることなく丸駒温泉に到着した。
　その時、けたたましいサイレンが聞こえた。
　消防車のサイレン音だった。
　方向からすると、三ツ橋の別荘の方だった。
　おそらく、湖岸で煙が上がっているのを見た人が、消防に通報したのだろう。

　芳恵は、冷や冷やしながら星からの連絡を車内で待った。

　第４５章　終了

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