第４７章 白樺林
食堂を出ると、既に日は落ちて、辺りは暗くなっていた。
白樺林を通り、体育館へ歩いた。木々の白い幹は、電燈に照らされて、暗闇に浮き上がっているように見えた。
ふと、「札幌では、いつ頃に若葉がでるんだろうな？」というシュウの言葉が脳裏を掠（かす）めた。
そうだ、ツユは、高校から札幌に住んでいるから、知っているかもしれない。
『白樺って、いつぐらいに芽吹くんだ？』と僕は、ツユに聞いた。
「さぁ、いつぐらいだろうな？札幌は、ゴールデンウィークでも、寒いからな‥」と苦笑いした。
『んだば、６月ぐらい？』
「そうだな。６月には、芽吹いていると思うよ。でもどうして、急に、そんなこと聞くんだ？」
『白樺の芽吹きを、妙に気にしてるクラスメートがいるんだ』
「へぇ、変わっている人だね。俺は、そんなことを、特に意識した事はなかったな」
『我も、考えだ事ねがったよ。まぁ、春になったら芽が出る。秋になったら葉が散る。ていどにしか意識してねがったな』
「みんな、そんな感じだと思うよ」
『その友達は、シュウっていう名前なんだ。１回、バスケ部の練習さ来たんだばって、覚えでらが？』
「うーん、思い出せないな‥」
『背が高くて、ガタイが良いんだ。熊みでぇな体格だ』
「あー、思い出したよ。結構、上手だったよな。ナイスセンターが、入ったと思ったんだ。１回こっきりしか、顔を見せなかったから、勿体ないと思っていたんだ」
『高校の時は、全国大会さ出場したらしいよ』
「全国か、中々やるな。それで、彼は、結局、バスケサークルに流れてしまったのか？」
『バスケ以外にも、やりてぇ事があるって言ってだよ』
「他に、やりたい事ね‥ 白樺にでも登りたいのかな、そいつ」
ツユが、にやけた。
『まさか、木登りはしねぇど思うよ』
「白樺が好きな大男か‥やっぱり、変わっているね。見掛けが、熊に似ているなら、マジで、木登りも得意かもね」
ツユは、白樺に負けず劣らずの白い歯を出して笑った。
「所で、タゲも白樺が好きなの？」
『遠くから眺めるのは好きだばって、白樺さ近づくのは好きでねぇな‥』
「どうしてさ？」
『自分でも良く分がらねぇばって、何だか、足が竦むんだ』
「犬嫌いや、猫嫌いの人には会った事があるけど、白樺嫌いの人は始めて聞いたよ。秋田も北国だから、白樺の木は多いんだろう？」
『いや、秋田ではあんまり見かけねぇな』
「白樺っていうと、北国のイメージが強いから、秋田にも、札幌と同じくらい、たくさんあるのかと思ってたよ」
『理由は、よく分がらねぇーばって、あんまりねぇーな。関東でも、白樺は、珍しいんでねぇーの？』
「そうだね。関東では余り見かけなかったな。初めて北海道に来た頃は、珍しくて綺麗だなと思ったけど。今となっては、普通の風景だな。白樺っていうから、木の幹全体が真っ白なのかと思っていたけど、実際に見てみると、以外に黒い部分が多いんだよね」
ツユは、白樺の幹を指差した。
『ブーメランの形みたいに黒くなってるなぁ』
「俺は、馬が蹴り跡に見えるね」
『そう言われれば、そうも見えるかな』
ツユが、腕時計をチラッと見てから、指差して言った。
「It’s Show time. 」とシュートを打つ真似をした。
『ブロック！』
僕は、彼の頭上に腕を伸ばして、彼のシュートをブロックする真似をした。
ツユは、シュートフェイクをして、ドリブルの真似をして抜き去った。そして、空中にジャンプして、ダンクをする真似をした。そのシルエットが、街灯の逆光を受け、僕の網膜に焼きついた。
「Let’s go to our gym, Take!」
ツユは、体育館へ向って走り出した。
僕も、負けまいとして、彼を追って走った。
第４７章 終了
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