２. アオイ
学生の頃、北十七条にある彼氏のアパートから、よく二人で、自転車に乗って、街に出かけた。
札幌で｢街に行く｣と云うと、普通、札幌駅からススキノ周辺に出かける事を意味する。
簡単に、言うと繁華街に行くという事だ。
彼氏のアパートのすぐ近くには、藤女子学園があった。
通称、「ふじじょ」と呼ばれているミッション系の学校で、中学・高校・大学の校舎が並んでいた。
街に行く時は、彼氏のアパートから、藤女のキャンパスを突っ切って行った。
ちょうど、藤女のキャンパスを出たあたりの沿道に、その花が、沿道を飾るように咲いていた。
炎のような赤、澄ました白、照れたような薄紅、ほろ酔い気味の紅、十花十色の花々が、沢山の蕾を頭に飾って、往来す る人々や自動車を眺めていた。
お盆に実家に帰省した時、家族で墓参りに行った。
墓地は、町内の外れにあり、家からは、皆で、下駄を鳴らして歩いた。
その途中、民家の庭先に、その花が、咲いていた。
そう言えば、子供の頃から、夏になると、そこかしこに咲いていた。しかし、その当時、この花が、何と云う花なのかと いう疑問は、湧いてこなかった。まぁ、子供の頃なんてそんなものだ。
｢母さん、この花の名前知ってる？｣と私は尋ねた。
｢何という花かは知らないけど、子供の頃は、めしべを採って、額にくっつて遊んだもんだねぇ。トサカみたいでしょ。だから、 ニワトリの花って呼んでたね」
その話を聞いて、花の名前も、いいようだなぁと感心した。
その後、名前を調べてみると、｢アオイ｣という花だと分かった。だが、アオイというよりも、ニワトリの花の方が、言い 得て妙だと感じた。
俳人の正岡子規は、次のような句を残している。
鶏の 塀にのぼりし 葵かな
今年のお盆は、私も、ひたいに、めしべを付けて、鶏になってみよう。
母の墓前に向かう、あの故郷の道で。
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